3 事件の幕開け(2)

8/11

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
「尤雄くん、気がききますねえ。ね、縲さん、言ったでしょ、ちょっといい男ですよって」  縲はあわてて愛想笑いで応えた。  尤雄のそっけない声がまた割って入った。 「さっさと話をすませるぞ。火事を見つけたとき、おれは片づけがてら庭を歩いてた。夕暮れの反射にしちゃ妙だと思ったから行ってみりゃ、あそこで火が燃えてた。だが庭側の戸にはいつも鍵がかかってる。だから本館に人を呼びに行った。そうだったな?」  縲はもう聞いた話であるかのような顔を作りつつ、耳をすませた。  楓次は素直に話を引き取った。 「はい、そこでおれも尤雄くんの声を聞きました。『コンサバトリーで火事だ!』って。にしても尤雄くん、あんな大声出せたんですねえ。どこの突撃命令かってくらい耳にがーんって飛びこんできて、飛びあがりそうになりましたよ?」 「けっ、大げさなんだよ。どうせその辺をふらついてたんだろ」 「たしかに夕富士がきれいだったから、ちょっとぶらぶらはしてましたけど。そこに大声がしたもんだから、あわてて駆けつけたんです。そうしたらガラスの天井にまで炎が届いて、不謹慎ですけど怖いくらいきれいでしたっけ。でも見とれる暇もなく、尤雄くんに水を運んでこいと怒鳴られまして」
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加