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そちらを見ることはしないまま、縲は心のなかで言い返した。
楓次がわが意を得たりとばかりの顔になり、指を立てる。
「それ、鍵の問題は重要ですよね。クメさんと駒藤さん──女中頭さんと執事さんなんですが、このふたりが家の鍵の管理を争ってまして」
彼はまだまだ話すことを持っていそうだ。
縲は先をうながそうとした。
「じゃあ、そのおふたりに話を──」
が、そこでついに尤雄にさえぎられる。
「おまえ、そもそもこの探偵を呼びにきたんじゃねえのか?」
彼ににらまれた楓次は照れ笑いをした。
「あ、そうでした。いやあ、なんか犯人捜しってわくわくしちゃって。『楊牙児ノ奇獄』って知ってます? 面白かったですよ。『青騎兵並右家族供吟味一件』も読みたいんですけど、こっちはなかなか見つからなくてですね」
「だからそういう無駄話をしに来たんじゃねえだろ」
そう言うと、尤雄は縲に視線を向けた。
「もういいか? よけいな面倒はごめんだ」
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