3 事件の幕開け(2)

10/11

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
 そちらを見ることはしないまま、縲は心のなかで言い返した。  楓次がわが意を得たりとばかりの顔になり、指を立てる。 「それ、鍵の問題は重要ですよね。クメさんと駒藤さん──女中頭さんと執事さんなんですが、このふたりが家の鍵の管理を争ってまして」  彼はまだまだ話すことを持っていそうだ。  縲は先をうながそうとした。 「じゃあ、そのおふたりに話を──」  が、そこでついに尤雄にさえぎられる。 「おまえ、そもそもこの探偵を呼びにきたんじゃねえのか?」  彼ににらまれた楓次は照れ笑いをした。 「あ、そうでした。いやあ、なんか犯人捜しってわくわくしちゃって。『楊牙児(ヨンゲル)奇獄(きごく)』って知ってます? 面白かったですよ。『青騎兵(あおきへい)(ならびに)右家族供(みぎかぞくども)吟味一件(ぎんみのいっけん)』も読みたいんですけど、こっちはなかなか見つからなくてですね」 「だからそういう無駄話をしに来たんじゃねえだろ」  そう言うと、尤雄は縲に視線を向けた。 「もういいか? よけいな面倒はごめんだ」
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加