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3 事件の幕開け(3)
(寝られなかった……)
高い天井を見上げながら、縲は窓の外の雀の声を聞いていた。
江那堂男爵邸の客室の寝台はふかふかで、枕は大きく、布団はふっくら軽く温かい。
このうえなく居心地はいい──のだろうが、むしろよすぎた。
寝返りのたびに体が沈むような錯覚に襲われてはっと目が覚め、そのうえ考えることも尽きず、とうとう朝を迎えてしまった。
(お育ちって、こういうなんでもなさそうなところにも出るんでしょうねえ……)
自分のベッドですやすや眠っている十子を想像しつつ、縲はもがきながらベッドを降りた。
貸してもらった寝間着も、落ち着かない一因だ。
レースを施した生地は美しいが、フリルを重ねた首の近くをきゅっと紐でしめるだけ。
あとはすとんとくるぶしまで一直線に身ごろが落ちて、まるで何も身に着けていないかのように心もとない。
(あ、でもこれ楽しいかも!)
動きにつれてふわりと裾が躍る。
縲は蝶々にでもなったような気分で窓に近づいた。
小さくしてもらった暖炉の火は種火ほどで、少しひんやりした朝の冷気が部屋にもただよって気持ちがいい。
(っと!)
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