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縲はあわてて身をひそめた。
朝日が昇るかどうかという薄明に、箒を手にした尤雄が庭を横切っていった。
そろそろ使用人は働きはじめるころらしい。
縲は着替えて、そうっと廊下に出てみた。
客室は大階段をあがった二階ホールに面している。
聞こえてくる物音をたどって、縲はお仕着せを来た女中たちが集まる部屋に行きついた。
「おはようございます!」
縲が顔をのぞかせると、女中たちが一斉に驚いた顔を向けてきた。
そのうちのひとりは、昨夜客室をととのえてくれた女中だった。
「お、おはようございます、阿古村さま。あの、朝食はもう少々──」
「やだ、縲で結構です。わたしも雇われ人みたいなもんなんですから。それで朝ごはんじゃなくて、お話を聞かせてもらいたくって。といってもいま一番忙しい時間でしょうし、なんだったら手伝います」
まったくの本心から縲は言った。
だが彼女たちは顔をこわばらせ、力いっぱいかぶりを振ってきた。
「いえっ、そんなことは! わたくしたちが叱られてしまいます!」
縲はちょっと声をひそめた。
「……あの怖い女中頭さん?」
女中たちは互いに顔を見合わせると、そうっと首をすくめるようにうなずいた。
縲はますます声をひそめた。
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