3 事件の幕開け(3)

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 縲はあわてて身をひそめた。  朝日が昇るかどうかという薄明に、(ほうき)を手にした尤雄(あやお)が庭を横切っていった。  そろそろ使用人は働きはじめるころらしい。  縲は着替えて、そうっと廊下に出てみた。  客室は大階段をあがった二階ホールに面している。  聞こえてくる物音をたどって、縲はお仕着せを来た女中たちが集まる部屋に行きついた。 「おはようございます!」  縲が顔をのぞかせると、女中たちが一斉に驚いた顔を向けてきた。  そのうちのひとりは、昨夜客室をととのえてくれた女中だった。 「お、おはようございます、阿古村(あこむら)さま。あの、朝食はもう少々──」 「やだ、縲で結構です。わたしも雇われ人みたいなもんなんですから。それで朝ごはんじゃなくて、お話を聞かせてもらいたくって。といってもいま一番忙しい時間でしょうし、なんだったら手伝います」  まったくの本心から縲は言った。  だが彼女たちは顔をこわばらせ、力いっぱいかぶりを振ってきた。 「いえっ、そんなことは! わたくしたちが叱られてしまいます!」  縲はちょっと声をひそめた。 「……あの怖い女中頭さん?」  女中たちは互いに顔を見合わせると、そうっと首をすくめるようにうなずいた。  縲はますます声をひそめた。
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