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「なぜ手を止めているのですか!」
険しい声に、縲はおもわずびくっと直立不動の姿勢を取った。
あわてて散った女中たちに置いていかれて、おそるおそる肩越しに振り返ってみる。
案の定、女中頭のクメがいた。
いまにもこめかみの血管をぴくぴくさせそうに、じろりと縲を一瞥してきた。
「阿古村さま、勝手に出歩かれては困ります!」
「はいっ! ……あの、十子さまとお話したいんですが、もう起きて──」
「十子お嬢さまがあなたと話す必要はございません。ご質問がありましたらわたくしにどうぞ」
とは言いつつ、とても喜んで質問に答えてくれるようには見えない。
どこの馬の骨とも知れない平民娘を男爵令嬢に近づけたくないのだろう。
それでもここはずうずうしく、縲は言質を取った体で言った。
「お話聞かせてくれるんですか! じゃあこんさばとりいの鍵について」
だがクメは、一瞬前の自分の発言など意にも介さなかった。
ふんと鼻を鳴らす。
「ばかばかしい、あんなことをした犯人はとっくにわかっています!」
あまりにあっさり言われて、縲はぽかんとした。
その間にクメは驚嘆すべき早足で立ち去ってしまった。
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