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縲は仰天したが、尤雄はやはりそっけなかった。
「知らねえよ」
ささいな疑問がさらなる難問になってしまった。
今夜も眠れなくなりそうだ。
縲はぎゅっと指先でこめかみを押した。
「そもそも犯人はなんであんなところに火をつけたのか、そこを考えるべきよね」
そこでふと気づく。
縲はうきうきと尤雄の前に回りこむ。
「ねえ、いまのわたしって探偵らしくなかった!?」
返ってきたのは、そっけないという程度をはるかに越した冷ややかな視線だった。
縲もさすがにわれに返った。
うっかりはしゃいだ恥ずかしさもあって、ぶすっとむくれる。
「……はいはい、すみませんでした。でも探偵をやらなきゃいけないから、鍵の管理について執事に聞いてくるわ」
縲は尤雄から離れて本館へとむかった。
後ろから声がした。
「──執事なら、いまは忙しくしてるはずだ。昼飯後、仕事をしてるふりのときにつかまえろ」
縲はふりかえった。
尤雄は背中を向けていたが、腰に差した煙管が目くばせするようにきらりと光った。
「ありがと」
縲はにこりと礼を言い、軽い足取りで立ち去った。
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