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§ § §
尤雄にまとわりついていた縲があっさり離れ、本館へと歩いていった。
十子はそっと窓辺から離れた。
朝日に照らされた小柄な体からまぶしいほどの活力があふれ出ていて、なんとなく見ていられなかった。
扉が叩かれる。
「どうぞ」
執事の駒藤が、茶の銀盆にぴしりと整えた複数の新聞を添えて入ってきた。
もとは銀行勤めの男だが、こうしたこまごまとした仕事も得意にしている。
自分の身じまいも抜かりなく、長めの髪は常にしっかり油をつけてなでつけられている。
「おはようございます、お嬢さま。本日の新聞をお持ちいたしました」
「ありがとう」
駒藤は銀盆を置いた。
だが今朝の彼はそのまま部屋を出ることなく、気ぜわしい口調でさらに言ってきた。
「おそれながら申しあげます、あの探偵とか申します客人につきまして意見がございます」
「阿古村縲さんよ。彼女が何か?」
「僭越ではございますが、そのような人間は本件には不要かと存じます。このまま捜査の真似ごとなどをさせては何がしかの謝礼金も要求してくるでしょうし、いまのうちに小遣銭を与えて帰せばよろしいではありませんか」
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