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「クメにございます。仔細はわかりませんが、あの火事は私を追い出そうとして企んだものに違いありません。もしかしたらすでにお嬢さまに何やら吹きこんでいるかもしれませんが、どうぞお耳を貸さぬようお願いいたします。私は誓って何もしておりません。それにコンサバトリーの鍵は、亡き奥方さま専用の部屋を私には任せられないと、クメが執事の鍵束から奪っていったものにございます」
興奮のあまり、息も少し荒い。
駒藤は念を押すように十子を見つめ、それから出ていった。
しばらく呆然としていた十子は、ぼんやりと新聞を手に取った。
江那堂男爵家には、著名な数社の新聞のほかに、父・蘭攝が趣味で出資した小さな新聞社の新聞も配達される。
そのほかにも、出資を求めて見本紙を持ってくる社も珍しくはない。
「また鳴東新聞ね……」
富裕層や権力者の醜聞や批判記事ばかりが並ぶ新聞はどう考えても華族向けではないのだが、何度もしつこく送ってくる。
ついにそれが決定打となって、食欲が急に失せた。
十子は女中を呼び、縲に朝食をともにできないことを詫びておくように頼んだ。
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