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19.たちの悪いドッキリだな?
結局その後、ゴムを持っていなかった課長に中出しまでされた。
うう、汚されちゃった――なんて涙する柄ではないが、また一つ何かを失ったような気がするぜ。
怒りがおさまった課長はまたいつも通り優しくなり、甲斐甲斐しく俺の世話を焼いている。
課長のマンションと比べて狭いバスルームで身体を綺麗に洗われて、散らかった部屋のソファで髪の毛にドライヤーをかけてもらう。犬にでもなった気分だ。
「奏太、さっき言ってたヤリチンとか騙されたとか、たくさん彼氏いるとか……どういうこと?」
「え! 俺そんなこと言いましたっけ」
そこ追求してくるのか――よし、この際はっきりさせようじゃないか。俺は課長に直接問うことにした。
「さっきの人、日下部さんていうんですけど」
「あ?」
日下部のことを話そうとしたら急に課長の声のトーンが急に低くなる。こわいっつーの。
「いや、ほんとあの人のこと部屋に上げるつもりなかったですよ。部屋には入れないってこっちが断ったら向こうがしつこくしてきて揉めてたんですから」
「ふん、そういうことにしようか。で?」
「で。その日下部さんから聞いたんですけど」
俺はちょっと口ごもった。なんだかこの件を責めるのって単に俺が嫉妬してるみたいじゃないか?
「聞いたって、何を?」
「……先々週の金曜、俺と会わずに何してたんです?」
そう尋ねたところ課長はちょっと目を泳がせた。彼にしては珍しいことで、その様子が日下部の発言を肯定しているように見えた。
「パーティーに行ってたんですよね? 日下部さんが暁斗さんのこと見たって言ってたんです」
「あ……それは……」
焦る課長を見て確信する。日下部が見たのは本当だったのか。くそっ。
「しかも、可愛い子とイチャイチャしてたって」
無意識に不機嫌な声が出る俺に課長はますます焦って否定する。
「イチャイチャはしてない!」
「つまり行ったのは認めるんですね」
「あ……」
自分の失言に気づいたようで、彼は口元を手で押さえた。
「でも奏太もパーティー行ったじゃないか今日」
「うっ」
――つーか、なんで課長はうちに来たんだ? 俺の家なんて教えてないんだけど。
「課長、そういえばなんでここにいるんですか? しかも俺がパーティー行ってたことをどうして知ってるんです?」
「それは……うーん、もう隠せないか」と課長は唸った。
「本当のことを言うよ。実は、君のお兄さん――いや今はお姉さんか。とにかく、先々週パーティーに行ったのは新木律に頼まれたからで、君が今日パーティーに参加したことも彼から聞いたんだ」
「はぁ!? 姉ちゃんに? なんで、どういうこと?」
新木律は俺の姉(兄)の本名だ。俺はびっくりしすぎて叫んでしまった。なんで課長が姉ちゃんに頼まれるんだ?
「実は、新木とは高校の同級生だったんだ」
「へっ!?」
――同級生……? え、つまり元々知り合いだったの?
待って待って、じゃあ俺がサクラって知ってたってこと? そんで課長もサクラだったの?
そういうことか……そういうことか! あのクソ姉と課長は二人して俺を騙して遊んでたってわけか……。
「はは、うそだろマジかよ。知ってたんだ、姉ちゃんのこと……じゃあ最初から課長が俺の彼氏になるとか言ってきたのもドッキリだったってことすか」
すっかり騙されてたわぁ……ていうかそれでここまでやるか?
「いや、違うよ奏太。そうじゃなくて、俺はたまたま君と会った時のパーティーで新木と……」
「帰ってください」
「奏太、説明させてくれよ」
「帰って下さい! 俺のバックバージンをおふざけで奪って楽しかったですか? いくら上司でもやっていいことと悪いことがあるでしょうが!」
「奏太……」
「出てけよ、これ以上言っても出ていかないなら警察呼ぶからな!」
「おい、落ち着けって。わかった、今日の所は帰るから。また連絡するよ」
課長は立ち上がって上着を手にとった。
「いらねえよ! 着拒するからな」
「奏太……」
俺はもう返事をするつもりはなかった。その様子が本気だとわかって課長は部屋を出ていった。
――なんだよあいつら。ありえねえ……つーか姉ちゃんマジ何してくれてんだよ、会社の人間とこんなことになって月曜からどうやって顔合わせればいいんだよ。
「クソ姉ふざけんな……」
俺はスマホを手にして姉に電話を掛けた。
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