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26.パーティー参加者からのクレーム
「やほー、久しぶり奏太」
やほー、じゃないだろ。なんで姉ちゃんがここにいるんだよ?
待てよ。姉ちゃんそういえば昔課長に告ったことあるって言ってなかったっけ?
――え? まさかそういうこと……? 俺と別れた課長は俺と血を分けた姉ちゃんと付き合うことにした……と?
「あ……俺、やっぱ帰りま――」
「おい、こら待て待て」
後ろを向いて帰ろうとしたら姉に野太い声で引き止められ、俺は首根っこを捕まえられた。
「あんたの考えてることくらいお見通しよ。安心しな、私が宮藤くんとなんかあるわけないでしょ! 私にはまぁくんがいるんだから」
あ、そうだった。姉には富田聖人という恋人兼共同経営者がいるのだ。姉は死ぬほど聖人に惚れているのだった。
「じゃあなんで姉ちゃんがここにいるんだよ?」
「あんたにも関係ある話をしに来てたのよ。ちょうどいいから一緒に聞いてちょうだい」
「はぁ?」
リビングに入ると、キッチンで課長が何か作っている最中だった。
「やぁ、奏太久しぶり。ごめんね、今手が離せなくて新木に出てもらったんだ。驚いた?」
「……っす……。びっくりしました……」
ほんの一瞬にせよ、姉に嫉妬してバカな勘違いをしたのが恥ずかしい。俺の脳みそもう末期過ぎだろ。ていうか俺ってもしかして嫉妬深い乙女のメンタルに成り果ててる……?
「さあ、ちょうど夕飯ができたよ。見計らったようなタイミングだね、さすが奏太だ。腹は空いてる?」
「朝から何も食べてないんでめちゃくちゃ腹ぺこです」
「いいね。じゃあ乾杯して食べようか」
テーブルに並んだ料理を見て姉が甲高い声を上げた。
「宮藤くんがこんな料理上手だなんてあたし全然知らなかったわぁ」
「あ、そうだ。課長これ……」
俺は手土産のシャンパンを差し出す。シャンパンなんて柄じゃない俺がこんなものを持参してきたのを姉はニヤニヤしながら見つめた。
「あんたでも気を遣うってことがあるのね」
くそ、姉ちゃん来てると知ってたら普通にビールにしたのに……。
「ありがとう。じゃあこれは冷やしておいてまずはこっちから開けようか」
課長からワインボトルを受け取った姉がグラスに注ぐ。
「じゃあ、偶然の集まりにかんぱーい!」
偶然の集まり? まあいいか。
俺も二人に倣ってグラスを傾ける。空きっ腹にしみる赤ワイン。さあ、課長が焼いてくれた肉を食うぞ。
今日はローストビーフが用意されていた。まさか毎週のようにこんなごちそう用意して待っててくれたんだろうか?
一切れ頬張ると、外側の焼け具合に中のジューシーさがちょうど良くてすごく美味しかった。
「うま……! 暁斗さん天才……」
俺が課長を見ると彼は照れたように微笑んだ。
「いい塊肉が手に入ったから久々にやったんだけど、火加減うまくいっててよかった」
「超おいしい~! 何これ、宮藤くんすごいね、肉汁逃げてない! っていうかあんたいつもこんな美味しいものごちそうになってるの? なんか許せないんだけど。しかもなんか宮藤くんの目が優しくなーい?」
姉はブツブツ言いながらも次々と肉を口に運んでワインもガブガブ飲んでいた。
「姉ちゃん、さっきからひたすら肉食って酒飲んでるだけみたいだけど大事な話があるんじゃないの?」
「ゴホッ、んぐっ!」
姉はむせかけて胸をどんどんと叩き、なんとか飲み込んでまたワインを口にした。
「そうだった~! 忘れるところだったわ。二人に聞いてほしいことがあるのよ」
「そういえば話があるからってわざわざうちまで来たんだったな」
姉はちょっとだけ神妙な顔をして言う。
「それがね。うちの主催するパーティーに参加してる人からクレームが入ったの」
「クレーム……?」
俺と課長は顔を見合わせた。それがなぜ俺たちに関係があるのか。
「その内容っていうのがね……奏太とそれから宮藤くん、あなた達が恋人同士なのに出会い目的のパーティーに紛れ込んで人を騙してるんじゃないかっていうタレコミだったの」
「えっ!?」
「なんだって?」
俺と課長は揃って驚きの声を上げた。姉は心底困ったような顔をして額に手を当てている。
「はぁ……サクラだと言われたわけじゃないけど、どうにも対応に困っちゃって」
俺は焦って姉に尋ねる。
「な、なんでそんな……何を根拠に俺たちが恋人だなんて主張してるんだよ?」
「それがね、奏太。あんたと宮藤くんが同じ会社だってことをその人は知ってると言って写真を送り付けてきたのよ」
「え?」
――なんで俺たちが同じ会社の人間だって……どうやって知ったんだよ?
姉はバッグの中から封筒を取り出し、その中の写真をテーブルに並べた。二枚の写真にそれぞれ俺と課長が写っていて、二人とも会社のビルから出てくるところだった。
「これ。あなた達が同じビルから出てきたってだけの写真だから必ずしも同じ会社の人間だとは言い切れないはずなんだけど送り主はそう主張してるのよね。で、このクレームを入れてきた人が日下部さんという人なんだけど、心当たりある?」
「え! 日下部さんが?」
――嘘だろ。 俺、あの人と飲んだ時仕事の話なんてしなかったのに、なんで知ってるんだ……?
俺の反応を見て姉が目を丸くする。
「あんたまさか日下部さんのこと知ってるの?」
「それが……この前助っ人を頼まれた日にしつこく誘われたからパーティーの後で一緒に飲んだんだよ」
「あら、そうなの?」
日下部のことは存在自体が地雷だったと気づいて咄嗟に課長の方を見た。すると彼は不機嫌さを隠そうともしないでぶすっとした顔をしている。しばらく黙っていた彼はやがて口を開いた。
「もしかして奏太、そいつにストーカーされてるんじゃないのか」
「え!」
「えーっ?」
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