1.カップリングパーティーサクラの俺

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1.カップリングパーティーサクラの俺

『奏太、もし来なかったらどうなるかわかってるわね』 「はい……わかりました」  俺は新木奏太(あらきそうた)――27歳のどこにでもいる会社員。  たった今、元兄だった姉に電話口でバイトを頼まれたところだ。 『会場はいつものところ、明日の20時からだから10分前には来るのよ』 「はいはい」  姉はゲイのカップリングパーティーを運営する会社の代表取締役だ。主催しているパーティーの集客が悪いからサクラとして参加しろ、と半ば強制的に頼まれた。姉には俺の恥ずかしい話や写真を大量に押さえられているので、逆らえばどんなことをされるかわからない。つまり俺に拒否権はなかった。    バイト代は出るからまぁ仕事と割り切ればいい。  自分で言うのもなんだけど俺は見た目は悪くないので、サクラとしてたまに借り出されている。俺の勤めてる会社は本来副業禁止だけど、身内の手伝いだからとコッソリやっているんだ。だって会社にバレるより姉に社会的に抹殺される方が怖いから。  そんなわけで俺は翌日仕事を定時で終えて会場に向かった。  気が進まないが、一応賃金の発生するバイトなのでトイレで身だしなみを整える。ツーブロックのアップバングヘアにくっきり二重の目。犬か猫かでいうと断然犬っぽいと元カノに言われたことのある顔立ち。 「よし、行くか」  受付で姉と目が合ってウィンクされた。一見美人な女に見えるが性別は男だ。本当の姿を知ってる俺は苦笑いで返す。 “ちゃんとしろよコラ”という邪悪な笑みをたたえる姉に見送られ、俺は精一杯男好きに見えるよう心掛ける。 ――ああ、だるいな。  最近彼女と別れたばかりでそれでなくてもイライラしてるというのに、むさ苦しい男たちの出会いの場でニコニコしなきゃならないとは。   本心を隠し、表面上はにこやかに立っていると俺のそばに一人の男性が寄ってきた。30代くらいか――これといって特徴のないスーツの男性だ。まだパーティーは始まってないから壁際に立ってるだけなんだけど、気の早い彼から声をかけられた。 「えっと、こんばんは。一人?」 「はい」 ――あたり前だ。こんなとこに普通複数で来るか? 「そっか、俺こういうの初めて来たんだ」 「俺もです」  営業スマイルを浮かべる。まあ、初めてなんて嘘だけどな。 「そうなんだ!? 君みたいな可愛い子がいるなんてついてるなぁ」 「はぁ」 ――おいおい、二十七歳の男に可愛いとかありえないだろ。まだ始まってもいないのにがっつき過ぎだよお兄さん。 「あ、始まるみたいですね。それじゃあ」  もう少し話したそうにしていた相手を置き去りにして俺は別の場所に移動した。するとちょうど司会の男性が現れ、パーティーの説明を軽くしてから会がスタートした。  まずはあらかじめ記載したプロフィールカードを手に、一対一で5分間全員と会話する。その後は自由時間が設けられ、5分の会話で感触の良かった相手にフリーでアプローチをかけられる。  俺は適当にフロアをウロウロして、パーティーに華を添える役回りだ。なるべく一人の男に捕まらないように満遍なく相手するのがポイント。  それなりの見た目の男と楽しく会話できたという記憶が残れば、「ここのパーティーなかなか良かった」とリピート参加してくれる確率が上がるからな。  かれこれ何回も参加してるからなんとなく立ち回り方は心得ている。相手に本気になられる前に上手くかわす術も身に付いていた。  そんな俺がそろそろ会場ぐるっと回り終えるという時、ふいに声をかけられた。 「新木じゃないか。ここで何してるんだ?」 「え……課長……?!」  目の前に現れたのは体のラインにフィットする上等なスーツに身を包んだ美形の男――上司の宮藤暁斗(くどうあきと)だった。
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