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――――『好き』だと言っても言わなくても、キスしてもしなくても、朝陽が昇るまで一緒に居ても居なくても、今までの関係が終わることに変わりはなかっただろう。
僕はきみを送り届け、親友に電話をかけた。
『何だよこんな時間に』
『静……結婚するって』
『あぁ、同期くん。実家が富良野のメロン農家なんだっけ?』
――何だそれ。最悪だ。
『えっ、お前知ってたの?』
『逆に、知らなかったのお前くらいだよ。静が「まだ黙ってて」って』
『何だよそれ……』
『静って"全部を受け止める覚悟"に押されると、弱いよな』
『知らねぇよ。なぁ、静って昔から、あんなに綺麗だったっけ?』
『綺麗か? 可愛いじゃなくて? 綺麗って何か、近くて遠い人みたいじゃね。それはもう……手ぇ届かなくなったってことだ。諦めろ』
『何だよその理論』
諦めるどころか――。
――今年最後のスイカがこれほどまでに味気ないのはきっと、きみがメロンに寝返ったから。旬を過ぎたスイカの真ん中だけをかじって――。
スイカが追熟しないことなんて、僕は知っていたはずなのに。
――――夕陽の門限が18時前になっても、きみがこの町を出てから7度目の夏が尾を引いている。この夏のきみは僕史上最強に綺麗なきみだった。
この夏生え変わった新しいしっぽを、僕らは今日も、引きずりながら歩いている――。
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