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小さい頃から当たり前のように隣に居たきみを特別な存在だと思ったことは無かった。
昔から、きみに好きな人がいるのか、付き合っている人がいるのか、探りを入れるよう周りの男子たちから頼まれるのは僕だった。
なぜきみがそんなにも人気なのか、その頃は正直わからなかった。
きみにとっての特別な存在が僕であれば良いのにと思ったのは中3の夏休みだった。僕の家にスイカを食べに来たきみに僕の母親がスイカの切り方を教えている姿を見た時。当時小学生だった僕の妹がきみに宿題を手伝ってもらっている姿を見た時。「伸びたね」と、部活を引退した僕の髪にきみが触れた時。
高1の7月、タウン情報誌に『弱小野球部を全力で応援する可愛すぎるチアリーダー』としてきみがフィーチャーされた。
校内にも、校外にも、町内にも、きみのファンクラブのようなものが出来た。きみの実家が営む定食屋にはそれまでにも増して男性客が殺到した。
その頃僕は弱小野球部のショート。僕の親友は弱小野球部のキャッチャーだった。僕の親友は高校に入学した頃からきみに好意を抱いていた。
そんな僕の親友ときみが付き合うことになった時、僕は少しだけモヤっとした。親友は2度振られているはずなのに、いつの間にか付き合っていた。
3度も告白しておいて、1年後に別れを切り出したのは親友らしい。そして今、ふたりはあの頃よりも仲が良い。
小さい頃から人たらしだったきみがこの町を出ていった時、僕はきみが居ない生活を上手く消化することが出来なかった。
女子大だから出会いが無いとは言っていたけれど、どうか東京ではきみの魅力が埋もれてほしいと僕は願った。
きみが大学を卒業して帰ってくるまで、どうかそれまで――。
けれど、きみは大学を卒業すると、東京にある食品メーカーで働き出した。
その頃から更に、きみは綺麗になった――。
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