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「昔、この町で一番お洒落な店出したいとか言ってなかったっけ? いつ出すの?」
「それは……お兄ちゃんに託した」
「託した?」
「お兄ちゃん、お店出したじゃん? 去年、私の希望に沿ったデザート試作してもらったら、何か満足しちゃって」
「ふーん」
「今年の夏から、お兄ちゃんのお店お世話になってるでしょ? ダイちゃんちのスイカに」
「あぁ、お世話になってるのはこっちだよ」
スイカだけではなく野菜も、たくさん買ってもらっている。
「ダイちゃんちのスイカってね、すごいんだよ」
「えっ、何が。あはは」
「スイカのデザート開発したんだけどね、色んなスイカで試作した中でダイちゃんちのスイカが私の理想に一番近い味になったの。私の基準がダイちゃんちのスイカだからかもしれないけど。やっぱり、一番好きだなぁって。ドストライク」
早口で熱弁して、運転席の僕の方を見てきみが嬉しそうに笑った。今、僕の顔は熟したスイカよりも赤い気がしている。大丈夫だろうか。
「お前も帰ってきて、兄ちゃんと一緒にやったら良いじゃん」
「…………」
きみは黙って窓の外を眺めた。
「おーい。静ちゃーん。静かになるなよ」
「静ちゃんって。ダイちゃんが呼ぶと何か変」
「変って何だよ」
「変だよ。でも何か、悪くないね。もっかい呼んでみてよ」
「何でだよ。嫌だよ」
「あはは。この辺は『お前』『おめ』文化だから私は気にしたこと無かったけど……お兄ちゃんが、中学生の頃に彼女に『お前』呼び嫌だって言われたんだって。私の名前知らないのかって」
「『お前』の方が『俺の彼女』感あって良くない?」
あれっ、何か今変なことを言ったかもしれない。
「……さぁ。ねぇ、ダイちゃん」
「ん?」
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