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「お兄ちゃんの元カノ、結婚するらしいんだけど、お兄ちゃんの店でお兄ちゃんが幹事になってお祝いのパーティしたんだって。馬鹿じゃない?」
「馬鹿……どっちが?」
「お兄ちゃん」
「何で?」
「だって……お兄ちゃん絶対引きずってるもん。元カノさんが好きだったご飯は全部実家の定食屋に置いてったつもりなんだろうけど、あの店には元カノさんの面影全部持ってってる。誰を想って極めた料理なのか、誰を想って造った店なのか、わかる人にはわかる」
「いつの彼女?」
「中3の夏から高3の夏」
「さすがにもう引きずってないっしょ」
「うちのきょうだい、青春引きずりがちなんだよね」
「ふーん。俺だったらまぁ……そもそも、引きずっていようがいまいが好きだった女の旦那になんて俺の畑の土踏ませねぇ。祝いはするよ? でも、畑には入れねぇな」
「あはははは。ダイちゃんって、そういうところあるよね。そういうところ、昔から好きだったよ」
「どういうところだよ」
「あーあ、お兄ちゃんさぁ、気持ち悪いくらい一途だったんだよね。馬鹿だけどさぁ、元カノさんの全部を受け止める覚悟はあったと思う。だから、元カノさんに戻ってきてほしかった。私も弟も元カノさんに懐いてたんだよね。本当……大好きだった。お兄ちゃんってまじで馬鹿」
「馬鹿……」
「元カノさんが幸せなら、良いんだって」
「なら、良いじゃん」
「は? もー、ダイちゃん! 早く車停めてチャリ乗ろ!」
「おっ、おう……」
きみの情緒がとっ散らかっている。そんなに元カノさんの結婚がショックだったのだろうか。
――駐車場に軽トラを停め、軽トラの荷台から自転車を降ろすと、きみはすぐに自転車の荷台にまたがった。
「はよはよ」
きみは『座れ』と、サドルを手でポンポンと叩いた。
「はいはい」
「れっつらごー!」
僕がサドルにまたがると、きみは僕のTシャツの両脇腹あたりを掴んだ。
「ちゃんと掴まってろよ」
ペダルを一漕ぎすると、スイッと自転車が前に進んだ。想定よりもきみは軽かった。昔からこんなに軽かっただろうか。
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