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「ダイちゃんと2ケツ、高校生ぶりだ!」
「良い歳こいて俺ら、何やってんだ」
まるで、青春をやり直しているようだ。
「たーのしー!」
きみの声が僕の後ろから海に向かって放たれる。クロスバイクが僕らのママチャリを抜いていく。低くなった太陽が僕らをオレンジ色に染めていく。
心にはきみへの愛しさが充満しているのに、今の僕の人生には圧倒的にきみが欠乏している。
明日や明後日が無条件に訪れていたあの頃とは違って、今この瞬間でさえ、きみを僕の傍に置いておくには理由が必要で――。
きみはどんな気持ちで僕のTシャツを掴んでいたのだろう。僕たちはしばらく無言で海沿いを駆け抜けた。
18時前なのに、日が暮れそうな気配が漂っている。
「夕陽でも見ていく?」
「いーねー!」
僕は海沿いにある公園に向けてペダルを漕いだ。よくよく考えると、20年近く幼馴染をやっているのに、きみとふたりで海に来たことは無かったかもしれない。
――僕だって一応それなりに女の子と付き合って、デートもしてきた。けれど、こんなにも女の子とふたりの時間が愛しいと思ったことは無かった。
自転車を降りたきみは足早に展望デッキまで駆けて行った。
「帰ってきて良かった」
夕陽に照らされたきみの横顔にはどことなく哀愁が漂っていた。
「同期と旅行、どこに行ってきたの?」
「……北海道」
「スイカ食った?」
「……メロン食った」
「うわぁー。スイカとメロンどっち派? ……って、世の中のあれ何なんだろうな。お前は……スイカだよな?」
「あはは。本当だよね。私は……どっちもかな。別物だし比べられないよ」
きみは『スイカ』と即答すると思った――。
「そっか」
「今何時?」
「18時15分」
「まだ!? 19時くらいかと思った。夕陽の門限ってこんなに早かったっけ?」
8月末にきみが地元に居るのは何年振りだろう。
「土日で弾丸で、よっぽど帰ってきたかったの? 仕事で何かあった?」
「んー、ダイちゃんに会いに来ただけ」
沈みゆく夕陽を眺めながら、きみは無表情でそう言った。
「え?」
「それだけだよ。あはは」
これは――。僕は夕陽どころではなくなった。変わらない僕たちの関係に終止符を打つ時が来たのかもしれない。今、ここから――。
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