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「気にするよ。期待しちゃうよ。起きてる時に言ってくれないかなぁーって、あの日の続き、10年も待ってた。やっぱり……ただの寝言、か……」
「静、俺!」
「こっち向かないで。こっち向いたらダイちゃん、私のこと抱きしめるでしょ」
僕が立ち上がろうとすると、きみは僕のTシャツを引っ張った。
「抱きしめるよ」
「今じゃない」
「ごめん俺、まじで覚えてない。でも、寝言でも嘘でもないから。静のことずっと」
「言わないで! お願い……何も言わないで」
――何も言わないでと言ってきみは僕の背中にぎゅっと抱き付いた。意味がわからない。
「俺はお前が」
「何も言わないでってば」
きみの言葉と行動が矛盾している。背中が熱い。僕のバックバクな鼓動もきみの身体に響いているはずだ。
「何で? 今更だけど、言わせてよ」
「私……結婚するんだ」
「……はぃ?」
――聞き間違いだろうか? ケッコンと聞こえた気がした。この状況で。いつ、誰と誰が? 何で?
「ダイちゃんが私のこと好きなら、もう、今日で、最後」
「それ言うために……帰ってきたの?」
「あの夏から生えている長すぎるしっぽ、引きずったままなの。守谷静のうちに断ち切らないと、絡まって、解けなくなっちゃう」
「静は……」
――どっちだ?
「……ただの寝言だったって……言って。スイカと間違ってキスしたんだって……言って。お前の自惚れだって……」
寝ぼけていたとはいえ、さすがの僕でもスイカときみは間違えない。
「意味わかんねぇ。えっ、お前、結婚すんの? 誰と?」
「会社の同期」
同期――。何だか、むかついてきた。誰に? きみに? 結婚相手に? 自分に?
「俺は」
「ダイちゃんに『好き』って言われたら、私東京に帰れなくなるからさ……言わないで」
いつから東京はきみの"帰る場所"になったのだろう。きみの帰る場所はここだと、当たり前のように思っていたのは僕だけだったのだろうか――。
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