甘くない!

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 冬に難関突破し資格を取得した。夢にまで見たことだった。  どうしても資格を活かしたくて、春に転職した。  けれど、世の中そんなに甘くなかった。  「なんでこうなるかなー」  と、ぼやいてしまう。  ぜひ来てくれと強引に引っ張られた転職先だったけれど、 いろいろと問題が山積みで、引継ぎすらされずに未経験の仕事に臨むこととなる。  転職したその日から、前の職場が恋しくなった。  必死に引き止められたのを振り切って出てしまったことが、悔やまれて仕方なかった。  甘い話なんか、世の中には存在しない。  社会人になってもうずいぶん経ち、もう誰も自分のことを若いとは言ってくれない。そんな年齢になってもまだ、この基本を分かっていなかったらしい。  わたしは自分の愚かさを呪う。    人生甘くない。  甘い話に飛びついてはならない。  ああー!  転職して毎日、溜まるストレスをどうにかしたくて、自然と甘いものに手が伸びた。  甘くない人生、せめてお口の中くらいは甘くしたいじゃない?  体よりも心がずたずたに疲れる日々、どろどろな気分でスーパーに入ったら、お野菜や魚より、どうしてもお菓子コーナーに足が伸びてしまう。  チョコ、チョコ、アメ。  仕事の合間に甘さがあれば、気分が紛れるじゃない?  これは必要なものなのだ。  太るかも、という懸念は常にあったけれど、構っていられない位、気分が落ち込んでいた。  気が付いたら毎日のように甘いものを買い込み、仕事中でも帰宅してからでも何かを食べていた。  そうして、じわじわと気づき始めたのが初夏。  気づかないふりをして夏が来た。  夏物の薄さは、残酷な事実を目の前に突き付けてきた。  なんだこの、ハラは!  パンツの上におモチが乗っている。    浴室前の鏡に、ハダカの自分が映っている。正月でもないのに、鏡モチが揺れている。  これはまた、立派な。  (た、体重は)  恐る恐る乗ってみて、変な声が出た。まさかと思っていたが、とんでもない数値になっている。    そこで葛藤した。  ストレス過多な状況で、甘いものを食べずにいられるのか。  もはや体形は諦め、己の心を護るほうを優先させるべきではないのか。  否。  ゆれる鏡モチが立派であるほど、心に炎が宿る。  冗談じゃない、と、わたしは思った。    希望の職種がここにあります、ぜひあなたが必要だ、だから来てください。  言われて来たのに現実はコレだ。詐欺みたいなものじゃないの。  で、詐欺にあった上に、こんな体形になってしまっていては、やられてばっかりじゃない?  (この場合、敵は人生であろう)  と、わたしは心を固める。  甘くない人生だから、甘いものを食べたら、それ見たことかと太りだす。  人生の奴は、こんなわたしを見てせせら笑っているのに違いない。  (絶対に、打ち勝つ)  意地悪い人生ってやつになぁ!  その日から、わたしの戦いが始まった。  この猛暑は、ダイエットの日々であった。
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