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70日後、救難艇は何事もなかったかのように火星の宇宙港へ到達した。着陸した信号を宇宙港の無人システムが感知し、電波信号で送ってきたのだ。
「ん? これは」
異変に気づいたのはルースターだった。
「司令官! 送り込んだ残り1体のリモーターとの間のみ、量子同期通信が回復しています! 今なら操作可能です」
「何だと?!」
これが意味することは。
1つ、オーストリッチは月支援基地側とコンタクトを取ろうとしている。それも限定的に。
2つ、だとすれば命懸けの火星渡航はとりあえず成功したこと。
……だ。
「僕がいきます」
ルースターがコックピットルームへと走った。この状況、オーストリッチが自分を呼んでいるのだと直感したのだ。
「ヘッドプローブを。接続開始の順次処理を急いで!」
だが会って何と言えばいいのか、プランはない。
脳神経とアクセスするヘッドプローブを被り、シートに横たわる。周りのスタッフが大急ぎでセッティングを続けている。
「リモーターアクセスコード2005、接続開始です!」
その声が聞こえると同時に、ルースターの『意識』が一瞬にして火星側へと辿り着く。
《いないか……》
目覚めた荷室、隣には空っぽのボックスだけが残されていた。間違いなく、オーストリッチは生きて火星に到着したのだろう。
「……」
救難艇を降りて、火星基地の建物へと向かう。狙いは今から300年以上前、人類が最初に火星へ降り立ったときに建築した通称『始まりの鶏小屋』だ。
崩れかかったドアは開いていて、中に誰かいるようだ。
「No2005……お前、ルースターか? そうでなければルースターに変わってもらえると嬉しいんだがな」
簡易宇宙服を着込んだ人物が首から近接通信機を下げている。遮光ガラスで顔は見えないが、紛れもなくオーストリッチだ。
《その手間は不要です。僕はルースターです》
「そうか、早かったな。もう少し掛かるかと思ったが」
《古くとも酸素ボンべとか生命維持機材が残存しているとしたらここしか無いので》
オーストリッチは猫背に座り込んでいた。かなり消耗しているのは間違いない。70日の絶食を仮死キットで耐えたとはいえ体力は限界に近いだろう。
《何を企んでいるのか知りませんが、人類の命運を懸けたプロジェクトに邪魔はさせませんよ》
意気込むルースターをオーストリッチが鼻先で嘲笑った。
「俺は生身だが、お前はリモーターだ。『3原則』によって、お前は俺を阻害することができない」
《……っ!》
そう、機械体は人間に危害を与えないよう、厳重に管理されている。
「そこまで大それた話じゃない」
オーストリッチがのっそりと立ち上がった。
「ドライブに行こうぜ。いつもの仕事場までだ」
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