フライトレスバーズ

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《こ……これは!》  ルースターの眼前にあったのは、掘削した岩肌から露出した巨大な『化石』だった。長く連なる形跡は恐らく背骨の類だろう。肋骨や、(ひれ)のような形をした筋、そして途轍もなく大きな頭骨。 《何という大きさだ。クジラぐらい……? いや、ゆうに60メートル以上はある!》  あまりの巨大さゆえに気づくのが遅れたのだと、ルースターは理解できた。管制室も今頃大騒ぎになっているに違いあるまい。 《凄い……かつて火星に生命が生まれる可能性のある環境があったことは分かっていたが、ここまで発達した生態系があっただなんて!》  呆然と眺める、圧倒的巨体。 「……凄いだろ? 俺は騒動の前日、この70メートル上で作業をしていて偶然、の頭骨の一部を見つけたんだ。ふふ……子どもの頃から化石が好きだったからすぐ分かったよ。これがただの石じゃないってね」  オーストリッチが誇らしげに笑った。 「こんな巨大な生物がいたということは、それだけ多様で膨大な食物連鎖のピラミッドが存在した証拠だ」  オーストリッチの眼には、その当時の豊穣な海が見えているかのようだった。 「ああそうだ……俺が宇宙を目指した理由、とやらを言うんだったな」  どっかりとオーストリッチが地面を腰を下ろした。 「俺は昔から『新発見』に憧れたんだ。けど地球はもう散々に調査しまくられていて、驚くような新発見なんざ簡単には見つからねぇ。だが、宇宙は違う」  ヘルメットの遮光ガラスで見えないが、オーストリッチは泣いているようだった。 「宇宙は広大で、新発見に溢れているはずなんだ。俺たちが知っている常識なんざ塵ほどにもならないような新世界があると……俺は信じていた。だから、宇宙に携わりたかった」 《……そして、あなたはその『新発見』を成し得たと》  そこまでは理解できるとしても、問題はそこではない。 《でも、それならそれで『これは新発見かも知れない』と声を上げるだけで済むのでは?》  ルースターの問に、オーストリッチは「分かっちゃいねぇなぁ」と悲しげに首を横へ振った。 「俺には確信がなかった。絶対の確信をもってから、この発見を世に知らしめたかったんだ。……命懸けでさ」 《確信? 化石が出るという確信ですか?》 「違げぇよ」  オーストリッチが喉の奥でくく……と笑った。 「そうじゃねぇんだ。はな」
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