クリストフ

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クリストフ

「よし、今だ!」 リーダーぶっているクラスメイトの掛け声で、俺以外の皆は逃げた。モンスターの群れに1人置いてけぼりにされたのだ。と言っても、毎回の事なんだ。クラスで最弱と言われている俺がモンスターにやられるのを見て楽しむんだ。簡単に言うとイジメだな。本人達は楽しんでるだけでイジメてるって意識は無いんだろう。イジって笑いを取っているって話。当人にしては迷惑な話だけど、ある程度やられたら助けに来て、回復薬をくれるから、そこまで悪い奴らって訳でもないけど、悪趣味なのは間違いない。俺は自分の弱さを惨めに感じながら今まで過ごしてきた。ただ、今日からは違う。 「オーラ」 俺は、野球選手がホームランの予告をするように、カッコつけて剣を構えながら言った。青白い炎のような気体が俺を包み込む。今朝、習得した新しい技だ。俺はこの技を『オーラ』と名付けた。それを見て、五体の猪のようなモンスターが一斉に俺へ襲い掛かってくる。俺は素早く交わし、剣で切る!次のモンスターも交わして剣で切る!あっという間に、全てのモンスターが真っ2つになり、地面に転がった。 「マジかよ……」「クリストフの奴、何であんなに強くなったんだ?」「ちっ、面白くね〜な」 俺は格段に強くなった。  今日、5月20日は俺の誕生日だ。遂に、覚醒の歳、15歳になったんだ。タンク血統の俺はタンクとしての能力が大幅にアップする。 ◆タンクとは、敵の注意を引き付け、自分が攻撃を受ける役目。味方に攻撃を漏らさず、耐久力が高ければ優秀なタンクと言える◆  じゃあ、皆が皆、覚醒の時に大幅な能力アップをするかと言うと、そうでも無い。何故なら、皆は戦闘系では無いからだ。何故俺が急激に強くなったか、皆は分からず困惑している事だろう。俺は特別な血筋なんだ。  この世界はモンスターが蔓延(はびこ)っている。町の外へ出るとモンスターが襲いかかってくるんだ。でもそれは、俺達が彼らの縄張りに入ったから。絶対とは言えないけど、基本的に、モンスターは町の中には入って来ない。町の中は人間の縄張りだと理解しているからだと思う。人間対モンスターと言うよりは、モンスター対モンスターの縄張り争いの方が激しい。弱いモンスターは淘汰(とうた)されていくんだ。  一昔前、突然変異なのか何なのか、別格に強いモンスターが現れた。かなりの知能を有していた彼は、毎日1人、人間をさらうようになった。律儀(りちぎ)に1人ずつだったらしい。色んな町から、毎日1人ずつさらっていく。人間達は彼を魔王と呼んだ。何が目的なのかは分からなかったけど、家族や友人をさらわれて平気な訳が無い。そんな、世界がドン底の中、5人の精鋭が集められた。そして、魔王を倒す事に成功する。魔王を倒した5人パーティーの1人が、俺のじいちゃんなんだ。俺は伝説のタンクの孫って訳。さらわれた人達は、奇跡的に皆無事だったみたい。特に危害を加えられる事も無く、魔王と一緒に暮らしていただけだったとの事。とは言っても、いきなり連れ去られて、怖い思いをしたのは間違い無い。一体何が目的だったのか……。もしかすると、人間と一緒に暮らしたかっただけだったのかも知れない……。  急激に強くなった俺を見て、同級生達は明らかに態度が変わった。いつの時代も強いやつは一目置かれる存在になるのだろう。俺達はモンスター狩りを楽しんだ後、俺は1人師匠の道場へ向かった。学校から徒歩5分、少し古びた建物だ。その前に、道場に通っているのに最弱なのか?と思われた人もいるかも知れない。そうなんだ、武術面というか、フィジカルではそこまで劣っている訳じゃない。イジメられっ子ってのはメンタルの弱さが大きいんだと思う。
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