ライアンとオリビエ

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ライアンとオリビエ

ガラガラガラ 「お願いします」 俺は頭を下げ、道場内に入る。 「お願いします」 中から挨拶が返ってきた。師匠では無い。小学4年生のライアンだ。背は低く、黒髪のショートボブ。色白で華奢な体つき、くりっとした目が特徴的で、女性のような見た目の男の子。ただ、見た目で判断すると痛い目に遭う。このライアンという少年、異常に強い。俺とは5歳も離れているけど、能力差はほとんど無い。ただ、それも昨日までの話。何故なら、俺は今日、覚醒したからだ。 俺達は竹刀を持って対峙(たいじ)し、一礼する。 「お願いします」「お願いします」 「いやあ〜!」 ライアンは掛け声と共に打ち込んでくる。 バシッ 俺はそれを竹刀で受け止める。 バシッ……バシッ…… ライアンの攻撃を全て受け止めた。すると、ライアンは攻撃をやめて言う。 「どうしたんですか?調子悪いんですか?」 攻撃をしてこない俺を見て、いつもと様子が違うと思ったんだろう。 「いや、絶好調だよ。じゃあ俺、お前の右足狙うから」 俺は竹刀の剣先をライアンの右足へ向けて言った。 「分かりました。行きます」 ライアンは俺の言った事を無視するように構えた。 「やああ!」 バシッ……バシイ! 俺はライアンの竹刀を叩き、その勢いのまま、ライアンの右足を竹刀で叩いた。 「痛っ」 実は竹刀と言えど結構痛い。何故なら防具などは着けていないからだ。俺達は普段着に竹刀のみでトレーニングしている。 ライアンは痛みも気にせず攻撃してくる。 「やああ!」 バシッ、バシイ! 「痛い!」 先程と全く同じ攻撃なのにライアンは防ぐ事が出来ない。ライアンは何か気付いた表情をして、動きを止め言う。 「もしかして……」 「ああ、15歳になった」 「おめでとうございます」 「ありがとう」 ガラガラガラ その時、入り口のドアが開き、一礼をしてオリビエ師匠が入ってきた。 「宜しくお願いします!」「宜しくお願いします!」 「宜しく」 師匠は175センチ程の長身で、白髪混じりの短髪に真っ白な顎髭(あごひげ)。還暦も近いというのに、引き締まった体型。鋭い目つきに低い声の強面(こわもて)。見た目は、現役を退いた物理アタッカーのような風格だけど、実は違う。師匠はヒーラーだ。しかも、先程述べた魔王を倒したパーティーの1人。師匠は伝説のヒーラーなんだ。 ◆ヒーラーとは、回復役の事。回復力が高ければ優秀なのは言うまでもないが、どの人物に、どのタイミングでと判断力の高さも求められる。余裕のある時には攻撃するタイプもいる◆ 「クリストフも遂に15歳か、おめでとう」 「ありがとうございます」 俺は礼を言いながら、今日習得した『オーラ』を使った。俺の周りが青白く染まる。 「わ〜!スゲエ!」 ライアンは先程の強い剣士から、打って変わって子供に戻ってはしゃぐ。 「クリストフよ、それだけヘイトを上げられれば、もう1人前のタンクぞ」 ◆ヘイトとは、敵の注意を引き付ける事。ヘイトを高める技はタンクに必須だ◆ 「ありがとうございます」 俺は微笑みながら礼を返した。 「ちょっと待っとれ」 師匠は背を向け、倉庫に入っていった。師匠に認められた事も嬉しいけど、それより感じた事があった。それは、俺の力は既に師匠を超えているという事だ。覚醒してから、相手との力差が何となく分かるようになった。もちろん、タンクとヒーラーってのも関係しているけど、1対1なら間違いなく師匠に勝てると感じた。そもそも、師匠は回復に特化したタイプで、攻撃能力がほぼ無い。当たり前と言えば当たり前だった。  1分程して、師匠が戻ってきた。手には3本の刀を持っている。 「では今日から、ライアンは真剣を使う」 「えっ?!」「えっ?!」 「真剣を使えば集中力が格段に上がる。クリストフはもっと能力アップが望める筈ぞ」 「そ、それ……もし、切られたら……」 「ワシが治すから大丈夫ぞ。万一死んでも生き返らせる」 俺は怖くなり黙った。 「どうした?ワシを信用できんか?」 「……」 俺は師匠の目をじっと見た後、逸らした。師匠の事を信用していない訳じゃない。治すと言っても斬られたら痛い。 「とにかくやってみい」 師匠は俺達に剣を渡す。 「クリストフの方は鞘が抜けんようになっとる。防御のみぞ」 俺は古びた刀の鞘を触る。確かに抜けない。ライアンの方を見ると、困惑しているようだ。俺は切られないように必死で防ぐのは間違い無いけど、ライアンは本気で斬りかかる事が出来るんだろうか。ライアンは鞘を抜き、刀の素振りをし始めた。 ビュッ……ビュッ……ビュッ、ビュッ 「オッケーです」 何がオッケーなんだ。こっちは全然オッケーじゃない。
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