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蘇生の謎
「クリストフ!クリストフ!」
俺を呼ぶ声が聞こえる。俺は生きているのか? 俺はゆっくりと目を開けた。……真っ暗だ。
「クリストフ!クリストフ!」
母さんの声だ。奇跡的に死ななかったけど、失明したのか?この匂いは……父さん!父さんの匂いだ。しかも、目が見えないんじゃない!何か顔に掛けられているだけだ!
俺はそれを取ろうと手を動かす。左手で顔に掛けられている布っぽい何かを掴んだ。いや待て!その前に左腕がある?!
「クリストフー!」
母さんが抱きついてきたようだ。しかも、腰の辺りにも感覚がある。俺は顔に掛けられている物を取るとTシャツのようだ。
「クリストフー!」「クリストフ良かった!」「生き返った!」
周りがざわついている。生き返った? 誰かが蘇生してくれたのか? 師匠以外に蘇生が出来るヒーラーが近くに居たのか? そうか……魔王にバレないように能力を隠していたんだな。
俺の右では母さんが泣いている。左には父さん……えっ?! 何だこの身体は?!
衝撃。何故か父さんの左の二の腕は傷痕だらけだ。Tシャツを脱いで俺の顔に掛けたからなのだろう、筋肉でムキムキの上半身が露になっているんだけど、信じられない程の傷痕が付いている。百……いや、千かもしれない……元の肌がほとんど見えない。
「クリストフ……良かった……」
「母さん……俺は蘇生してもらったのか?」
「そう、オリビエさんにお礼を言っておいで」
「は?!」
師匠?!師匠は俺の目の前で死んだ筈だ!あれは誰かのモノマネ能力だったのか?でも、そんな能力者なんてこの町にいなかったような……。
俺は両親に支えてもらいながら、ゆっくりと身体を起こし立ち上がった。母さんと父さんの間から周りを見ると目の前にはオリビエ師匠が立っている。
「クリストフ、どうだった?魔王の攻撃は痛かったか?」
師匠はニヤッと笑って言った。どう考えても、今、目の前に居るのは本物のオリビエ師匠だ。
「……いえ……。師匠が殺された怒りでアドレナリンが大量に分泌されたせいか、痛みをほとんど感じませんでした」
「そうか、また成長したな」
「いや、そんな事より、師匠はどうしたんですか? 俺の目の前で殺されましたよね?」
師匠は鼻で笑った後、答える。
「ワシは伝説のヒーラーぞ。前回の奴との戦いで全く同じ技を使ったのに、あいつは今回も気づかずに去っていったようじゃ」
「ど、どういう事ですか?」
「まあ、その辺は後で話そうか。お前と話をしたい人達も一杯いるようだしな」
そう言われて周りを見ると、友達が俺と師匠の話待ちをしていた。
「クリストフ良かったな」「全部見てたぞ、ボロ負けだったじゃないか」「グロい死に方だったな」
師匠との話が終わるのを見て、皆が一斉に話し掛けてきた。男友達は冷やかすものとヒーロー扱いするものの2種類にハッキリ分かれた。ただ、前者であっても、冗談で言っているだけで心の中では俺への憧れみたいな感情が溢れ出ているように感じられた。
その後の授業はと言うと、最初だけは魔王について話があり、俺達の心情を気遣うような感じがあったものの、その後は普段通り進められた。一時的に、2人が残酷に殺されたとは言え、俺達に余裕が見られたからだろう。小学生には、もう少し時間を掛けてカウンセリングが行なわれているのかも知れない。
あんな事件があったと言うのに、俺達は今日の放課後もモンスター狩りを楽しんだ。一躍ヒーローになった俺と一緒に戦いたいと、いつもの数倍のメンバーになった。
狩りを終え、いつものように道場へ行く。
ガラガラガラ
「お願いします」
俺は頭を下げ、道場内に入る。
「お願いします」
中から挨拶が返ってきた。ライアンは今日も早めに来てウォーミングアップの素振りをしている。今までと違うのは竹刀では無く、真剣を使っているという事だ。ライアンは刀を鞘に納め、俺に近づいて来る。
「クリストフさん! どうでした? 魔王と戦った感想は? 俺、見せてもらえなかったから……」
ライアンは目をキラキラさせながら聞いてきた。師匠に蘇生してもらえると信じているから、殺されてでも戦いたかったのだろう。
「ああ、魔王の足を2回斬ってやったぞ」
「本当?! 凄い!」
「まあ、その後瞬殺されたんだけどね」
俺は笑いながら言った。
「どうだった? 強かった?」
「桁違いの強さだよ。でも、あいつの攻撃を1回耐えたからな。師匠の回復とお前の攻撃を繰り返せば勝てる可能性は充分だ」
「そうなんだ! よし! 練習するぞ! クリストフさんお願いします!」
ライアンはそう言って、刀を鞘から抜いた。
「ちょ、良いけど師匠が来るまでは真剣使うなよ?」
「あ、そうでした」
ライアンは竹刀と真剣を交換する為に、自分の荷物の場所へ行く。その時、道場の外から強めの力を感じた。悪い力では無さそうだ。師匠が誰かを連れてきている。俺は思った。実は、師匠に子供が居たんだと。だから、師匠と俺が殺されても蘇生出来たんだと。
ガラガラガラ
「宜しくお願いします!」「宜しくお願いします!」
「宜しく」「宜しくお願いします」
師匠の隣には、中肉中背で俺よりも少し年上に見える、黒い長髪をなびかせたイケメンが立っている。師匠には全く似ていない優しそうな顔つきだ。
「紹介する、魔導師のミルコぞ」
「ミルコです。今日から一緒にトレーニングさせてもらいます。宜しくお願いします」
俺は会釈をしながら質問する。
「魔導師?ヒーラーじゃないんですか?」
「ヒーラー?東の外れの町から、有名人にわざわざ来てもらったんぞ」
「え?師匠の息子さんでは?」
「独身のワシに子供はおらんぞ。クリストフも知っとろう」
「じゃあ一体、誰が師匠を蘇生したんですか?」
「じゃから、ワシは伝説のヒーラーぞ。予め自分に蘇生を掛けといたんぞ。10分後に生き返るようにの」
「そ、そんな事が出来るんですか?!」
「あんまり皆に言うなよ。魔王にバレたらいかんからの。前回の奴との戦いもそれで生き延びたんぞ。残念なのは生き返った後、魔力がほとんど残っとらんから、近くに居たミルコのオヤジのジョバンニしか蘇生出来んかったんじゃ。周りには強いモンスターがゴロゴロおるからどうしようも無くての。2人で途方に暮れとったら、ジョバンニが独断で魔法を使ってワシを近くの町まで飛ばしたんじゃ」
納得。分かってはいたけど、師匠は一人だけ逃げて帰って来た訳じゃなかった。この事実を皆に言いたいけど、師匠の能力が広まり過ぎて、魔王にバレてもいけない。
「さて、今日はミルコ、ライアンペア対クリストフぞ。さすがに魔法は避けれんから覚悟せんとの」
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