70人が本棚に入れています
本棚に追加
知りたいこと
「佑人?大丈夫?」
「はぁ…っ、ん…苦しい…」
「えっ、まじ!?どうしよっ…」
「暑っつい…はぁ…っ、シャワー浴びたい…」
「あっ、待って…」
息が上がって足元のおぼつかない佑人を一人で歩かせるなんて出来なくて、急いで手を伸ばし佑人の手を掴んだ。
「ん…?」
「あのっ、危ないから俺も一緒に行く…」
「ん…じゃあ連れてって?」
甘えた表情でおおねだりする佑人に煽られながらも、これは病人の介抱だと頭を切りかえ、ふらつく佑人を抱えそのまま一緒に手早くシャワーを浴びる。
一通り終わっても尚出る様子のない佑人から先に出てろと追い出されると、俺は適当なタオルを準備して佑人が出てくるのを大人しく待っていた。
暫くすると風呂場のドアが開き、虚ろな表情の佑人が倒れるように俺に寄りかかってきた。
「うぉっ、ちょっ…大丈夫かよっ!」
「ん…無理ぃ…」
熱があるのに絶対に無理させたと反省しつつ、自力じゃ何も出来ない佑人の体と頭を手早く拭いて、これ以上悪化しないようにとしっかり新しい服を着せて再びベットに寝かしつけた。
「少し寝た方がいいぞ?」
「ん…でも寝たら帰っちゃう…?」
それは、帰って欲しくないってことで合ってますでしょうか…?
大胆で積極的でカッコイイ上にそんなに可愛いことも言うなんて、俺の心臓はあと何時間…いや、何分持ち堪えられるだろうか。
それに―――
「ううん、だって…まだ聞いてないし…あの話」
「……。本当に覚えてないの…?」
「うん…。ごめん…っ」
「そっか、でも約束したから…教えてあげる」
不安と期待にゴクリと喉を鳴らし差し伸べられた手を握ると、佑人は今にも寝ちゃいそうな顔で静かに話し始めた。
「雪月があのアパート引っ越す時…荷物運んだの…俺…」
「荷物…引越し…?えっ…あっ!もしかしてあの時の…!?」
あの時のあの人が…!?
信じられない。
ここに引っ越してきた時引越しを適当な業者に頼んで、その時の何人かいた内の一人が恐らく佑人だ!
他の人とは違って細くて色が白くて…
キャップで隠れて少し覗き見える目がすごく綺麗で印象的だったのを覚えてる。
でもじゃあ俺がここにいる事を知った上で、向かいのアパートに引っ越してきたって…そう言う事なのか!?
「覚え…てる…?」
「あぁ、引越しの時の事は覚えてる。綺麗な子だなって思ってたから…けど、それが佑人だったなんて…全然気が付かなった…」
「そっか。俺を助けてくれたことも…覚えてない?」
「助けた?俺が…佑人を!?」
「うん、俺あん時寝不足でさ…階段踏み外して荷物ごと落っこちたの。雪月はそん時、落ちてく荷物より俺を優先して助けてくれた…命の恩人…」
「命の恩人なんて…そんな大袈裟な…」
ここまで聞いてもあの引越しの日の事はハッキリと思い出せない。
そんな事があったような気もするけど、入れ替わり立ち代り何人かで作業してたし、それに俺…極力他人と関わる事を避けてたし。
たまたまタイミングよく助けただけで、意識なんて全くしてなかった。
「その後も雪月…ずっと優しかったし、書類にサインもらう時も俺、すっごいドキドキして…っ、その手に触れたくなっちゃって…まだ側にいたいって思って、すぐ引っ越してきちゃった…」
佑人は、俺が想うよりもっと前に…
俺よりもずっと長い事俺の事を想っててくれてたなんて…
そんな夢みたいな話…信じられない―――
最初のコメントを投稿しよう!