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成瀬さん観察日記二日目
次の日の朝…
と言ってももう昼くらいだが、扉が開く音がするとすかさずカーテンを少し開けてアパートの間の細い路地を眺める。
どうやら出ていったのは背の高い彼一人ようだ。
俺は朝昼兼用のカップラーメンをすすり終わると、一服するためにベランダに出る。
深呼吸がてら煙を吐き出し隣のベランダに視線をやれば、タバコの箱らしき物の中を覗いて、難しい顔をしている寝癖の頭の成瀬さんが出てきた。
まだ頭が動いてない俺は、何となくそれをぼぉっと眺めていると、俺の存在に気が付いた成瀬さんが俺の持ってるタバコを指さして突然話しかけてきた。
「それ、タバコ?一本くんない?」
「…あ、うん…いいけど…っ」
「ライター入れて箱ごと投げて?」
「お、おう…」
突然の事にドキドキしてしまい、手が震えて上手いように事が運ばない。
今まで見ているだけだった人に話しかけられてるなんて!
落ち着け…っ!自分っっ!!
震える手で言われた通りライターを入れて、箱ごと投げ渡すとそれを上手い事キャッチして、タバコを一本手に取りライターで火をつけしゃがみこんで一服する成瀬さん。
やることなすこと全部俺の好みで超カッコイイ!
この人って現実に存在するの?
もしかして2次元なんじゃ…
いや、俺が生み出した妄想の幻影か何かかもしれない。
そんな俺のだらしない顔を見てか、成瀬さんはニヤッと笑いタバコをひと吸いすると、ふぅっと煙を吐き出して立ち上がった。
「これ、残り貰っていい?」
「あ、うん…っ」
「サンキュ〜」
そう言って成瀬さんはのんびりと部屋の中に戻って行った。
そして成瀬さんの姿が見えなくなって数分後、やっと緊張が溶けた俺は力が抜けてその場にヘタリ込み、はぁっと深いため息をついた。
深呼吸代わりにもう一本…と無意識にポケットに手を伸ばしたが、成瀬さんに丸ごとあげてしまったので生憎俺の手元にタバコは一本もない。
「はぁ…」
本日、二度目の溜息をつき部屋に戻ると、する事もない俺は、そのままベットになだれ込んだ。
「めちゃくちゃ緊張したぁ…」
見てるだけだった日々が少しだけ動いた日―――
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