首吊りトイレ

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 教室に入った瞬間、イヤな予感で円香(まどか)の息が止まった。  今日づけで転校してきた中学校、二年一組の教室。担任教師と教壇に上がり、室内を見回す。イヤな予感は確信に変わる。  後ろの窓際の席だけおかしい。  前も隣も不自然に距離をとっている。まるで『隔離』するかのように。  その席の主は、ショートカットと意志の強そうな瞳が印象的な女子だ。  彼女は、あからさまにのけ者にされていた。 (うそでしょ……せっかく逃げてきたのに)  無意識に首をさすった。 「新塚(にいづか)円香さん、自己紹介して」  円香は消え入りそうな声で名乗った。三十人分の視線がグサグサ刺さる。今すぐ家に帰りたくなった。 「しつもーん!」  中央の席に座るポニーテールの女子が手を挙げる。 「新塚さんは、あ、名前で呼んじゃお。円香ちゃんはどうして首にネックウォーマーなんか巻いてるの? もう四月だよ?」  円香の肩がビクッとはねた。  質問者の女子は「黙ってちゃわからないよ、円香ちゃーん?」と茶化す。くすくすと笑い声。質問に答えられず萎縮する円香を、クラス全員で面白がる。  ただ、ひとり。  クラスから隔離されたあの子だけが、円香を笑わずにいた。  だが重苦しい不安はなくならない。本当はもうバレてるのではと気が気じゃない。  前の学校で、円香が自殺未遂したことを。
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