1人が本棚に入れています
本棚に追加
どうしようもなく好きな人がいました。
どうしてかわかりませんが、その人を見ているだけで私の心臓は尋常じゃないくらい興奮して走り出すので、言ってしまえばいい迷惑でした。
その人のせいで、私が壊れていくような気がしました。
何も手につかなくて、気もそぞろで、前まで夢中だったあれもこれも、毎日欠かさずやっていた日課も、全部いい加減に崩れてめちゃくちゃになってしまいました。
眠ることも、食べることも、以前ほどの興味や楽しみを感じさせません。ただ、その人が好きだと言っていたチョコレートだけが、妙に私の目を奪うようになりました。
それが何日も続きました。
日に日に濃くなっていく隈とその人への想いが、ふと鏡を見たような時に確認されました。なんだかつらくなっては溜息を吐いてばかりで、こんな落ちこぼれが私なのかと思うと途端に悔しく思いました。しかしその一瞬顔を見せた悔しささえも、昼間その人が見せた笑顔にあっという間に塗り替えられてしまうのです。
このままではいけないと思いました。
早急に、私の脳内にある美しいその人の記憶を根こそぎ追い払う必要があると思いました。
私の有限で希少な時間を、負け戦のために費やすのはあまりに愚かだと、考えた結果のその決心でした。
……負け戦と決めつけるべきではないと、誰かは言うかもしれません。しかし、相手の気持ちをこちらに向けさせることに対して、ある程度の困難は避けられないであろうことを、私は容易に想像できてしまいます。そして、私の臆病な精神は、屈強な鎧で私の心を守り固めようとするので、身動きが取れなくなってしまうのです。
つまり私は、超がつく程のビビりなのでした。
また、私の決心にはもう一つ理由がありました。
私は少々厄介な病に罹っていて、どうやら家族は秘密にしていたようなのですが、ある日母が口を滑らしたことには、余命はあと二年程しかないのだそう。
……だから、別の病にまで苦しめられ、時間を奪われている場合ではないというのは、至って常識的な考えなのではないでしょうか。
最初のコメントを投稿しよう!