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嗚呼 我が人生
この世には│贈り物と呼ばれる超常の力が存在する。
選ばれし者に与えられる唯一無二の個性。命を受け、生まれ落ち、15を迎える頃に神様から贈られる特別な力。
その種類足るや千差万別、無限にあるとされ、一部特殊な物を除けば現在に至るまで一つたりとも同じ力を有する│贈り物は確認されていない。
武力、商才、頭脳、あらゆる才能を飛躍的に向上させる当たりもあれば、所謂ハズレ│贈り物と呼ばれる残念な物もある。
ありがたい事に、こうしてダラダラと語る俺もまた選ばれし者であり、神様からありがた〜い│贈り物を賜った1人だ。
どんな│贈り物だと思う?
他を圧倒する最強の力? 魔力を自在に操れる魔術師とか? はたまた超絶天才的な頭脳か?
いいや、どれも違う。
俺が貰った│贈り物はハズレ枠。個人的にはこれ以上無いってくらいの大ハズレも大ハズレ。
平凡に、平和に、いつかエロい嫁さんを貰って何事も無く日々を謳歌したいだけだった俺にはまったくといって必要の無いクソ│贈り物だ。
あの神様には今一度、選ばれし者とは何なのかを勉強し直してもらいたい。
「ふっ……! ふっ……!」
「……」
俺ともう1人以外誰も居ない丘の上。夕日を背に受けながら、望んでもないのに愛剣になってしまった茨ノ光剣を一心不乱に振り続ける。
腕が痛い。背中も肩もギシギシ軋んでて、指先に関してはもう感覚すら無かった。体中が悲鳴を上げていようと、体幹を崩す事なく、何度も何度も剣を振り続けた。
いや、もっと正確に言おう。
振っているのではなく、│振らされている《・・・・・・・》のだ。
誰にだって? 誰でもないさ。強いて言うなら、俺自身か。……いや、別に臭いセリフを言いたい訳じゃなくてだな。
「(もうじき日が暮れる。素振りの回数はとうに3000を越えているというのに、何という精神力だ。流石です、師匠!)」
近くの岩の上に座り込んでジッと俺の事を見つめ続けている自称弟子の目が、露骨にキラキラとしてやがる。
見てないで止めろ、頼むから。俺これ以上やったら腕飛んでいきそうなんだけど。使い物にならなくなったらどうしてくれんの? 自慰の一つも出来やしないじゃねーか。
じゃあやめればいいだろって話だが、やめられるものならとっくにやめてる。
さっきも言ったが、選ばれし者(笑)な俺も神様から│贈り物を貰っていてな。主に……つーか、100%それのせいでこんな事になってるんだよ。
「(いつまでやらされんのこれ)」
遥か彼方に剣を投げ飛ばしたい気持ちとは裏腹に、俺の体は尚も剣を振り続ける。
兜の下にある俺の目は、既に死んだ魚みたいになってるんだろうな。
「(ん……? おっ? やっと終わりか!?)」
絶望すら感じ始めた頃、突如として世界から色が抜け落ちた。
灰色に染まった世界。俺も、風も、空を舞う鳥も、地面を這う蟻すら例外なく、時が止まった。
やがて目の前に現れる見慣れた文字列。
【もう十分頑張った。恥も外聞も投げ捨てて盛大に「疲れたもぉぉぉぉん!!!」と泣き叫ぼう】
【まだまだこれからよ。素振り2000回追加だ!!!】
【開き直って10000回行ってみようよ☆】
……察しの良い方ならもう理解できたと思う。
これが、俺が神様から貰った│贈り物、運命選択である。
俺の意思はお構いなし。どこだろうと、どんな場面だろうと、めちゃくちゃな選択肢を俺に掲示して選ばせる。
選ばなければ時が動き出す事もなく、選んだ選択肢は必ず実行(強制)しなければならない。
うん、改めて言うよ。クソだね。
つまり俺の人生、ほぼコイツ次第。自由? なにそれ食べられるの?
平凡な日常を望んでいた俺の人生は、コイツを貰った日に閉ざされたと言っても過言ではないのだ。
「(ふざけんなチクショウ! これ実質選択肢一つだろうが!)」
望んで築いてきた訳ではないとはいえ、一番上の選択肢は俺のクールなイメージがぶっ壊れる! 自称でも弟子の前でそんなザコ発言できるわけねーだろ!!
そんで一番下ァ! お前なんだこの野郎! 何をどう開き直ったら10000回追加する事になるんだよ!限界だっつってんだろ! 腕どころか命落とすわ!
やればいいんだろやれば! 真ん中だオラァ!
「おぉ……! 更に速度が増している! まだやれるのですか師匠!」
「当然だ」
当然じゃないよ! バカ言ってんじゃないよ! 本音は逃げ出したいよ!
「ならば、私も最後まで見届けましょう。師匠の完成された型を少しでも学ぶ為に!」
いや見届けないで助けろよ! オメェそれでも弟子かよ!! 師匠の心の悲鳴くらい汲み取れバカァァァッ!!!
【速度を上げよう。2倍だ】
【速度を上げよう。3倍だ】
【速度を上げよう。10べぇだ!!!】
いやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
これは、運命選択に振り回される俺の日常。
願わくば、いつかこの困ったちゃんを手放せるその日が来ますように……え? 来ないの?
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