ちょっと変態なくらいが人間らしい

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ちょっと変態なくらいが人間らしい

 事の始まりは数年前まで遡る。  「なぁなぁ、どんな贈り物(ギフト)が貰えると思う?」  「分かるわけないだろ。母さん達が言ってた通りなら、完全にランダムだって話だ。そもそも貰えるかどうかも分からないんだから過度な期待すんなよ」  小さな村に生まれ、両親の手伝いをしながら毎日を平凡に生きてきた俺は、今日(こんにち)、晴れて15歳を迎えた。  やったぜ誕生日だ! 祝え祝え! なんて暢気な事を言っている暇もなく、今日俺は親友と共に王国へと足を運ばされていた。  もっと正確に言うなら教会。それも、神様とやらが祀られているとされる神聖な大教会だ。  何処の田舎者だと周りからの熱い視線も何のその。俺達は列をなして自分達の順番を今か今かと待っていた。  正直クッソダルいけど、両親が絶対に行けとうるさいものだから、こうして親友と来ているのである。  何の因果かコイツも同じ誕生日。……まぁ、1人で来るよかよっぽど気が楽だからありがたいっちゃありがたい。  さて、では何の為にこんな所に来ているのか? もちろんそれは、神様とやらから贈り物(ギフト)なる特別な力を賜る為だよ。  ……いらないんだよなぁ。  俺、無難に生きたいだけだから。普通に働いて、普通にエロい奥さん貰って毎日を謳歌したいだけなんだよ。変に凄い力とか貰っても困るだけなのよ。絶対持て余すし、そういうのは勇者志望の人とか、強くなりたい人とか、「くっ、我が腕に封じられし邪竜が!」とか言ってるよく分かんない人にこそ渡せばいいじゃない。  何も望んでないこんな凡人に渡してどうすんのよ。神様暇なの? 渡さないと死んじゃう病気でも患ってんの?  そもそもの話、こうして教会に足を運ばずとも貰える人は時が来れば問答無用で贈り物(ギフト)を押し付けられるって話じゃないか。本当に何故来なければならないのか。  形式上ってやつ? クソ食らえだね。  「やっぱりそうだよなぁ。どうせ貰うなら凄く良い物だといいな!」  「だから期待し過ぎんなって。貰ったとしても、うちの向かいに住んでるエリオくらいの物だと思っておいた方がいい」  俺達より3つ年上のエリオは、洗い物が速くなる贈り物(ギフト)とかいう、超限定的な力を貰っていた。  おかげで毎日家の皿洗いやら何やらを任されて苦労しているらしい。将来はレストランとかで雑用させられるんだろうな……可哀想に。  「あー、でも俺はそれでもいいかもなぁ。母さん達の手伝いも捗るし、家事が上手くなるのはいい事だ」  「良い子かよ」  相変わらずの両親想いめ。褒めて遣わす。  この親友の名前はラインハルト・ノーヴァ。通称ライ。  家事洗濯も難なくこなし、顔も良ければ性格も良しなモテモテ男子代表である。村の女の子達にも大人気で羨ましい限りだよクソが。  「ネムはどんな贈り物(ギフト)が欲しい?」  今呼ばれたネムってのが俺の名前である。ライが付けた相性だけどな。フルネームはネムリア・クワイエ。縮めてネムだ。  「当たり障りのないやつかな。むしろ何も貰えなくていいし。贈り物(ギフト)なんて欲しがる奴だけに渡せばいいだろうに、神様も恩着せがましいっていうかさ。何様なんだろうな」  「え? 神様だろ?」  「真顔で返してくんな」  流石ライ、本日も平常運転で何よりだよ。  ……贈り物(ギフト)、ねぇ。  ふと、近くの壁に施された豪華な装飾に目を向ける。ピカピカに磨かれた装飾には、ハッキリクッキリと俺の姿が映し出されている訳だが――。  長い薄紫の髪に同じく淡い色をした紫の瞳。華奢な体とバカみたいに整った顔。  もはや見慣れたものだが、見る度にため息を吐かざるを得ない。  「そうだな、一個だけ欲しい贈り物(ギフト)はあるかも」  「なになにっ?」  「近ぇ、離れろバカ」  「お、おぉ、悪い」  グイグイと顔を寄せてくるライを引き剥がせば、何かこっちが悪い事したみたいな表情で落ち込まれた。  昔から距離感がおかしいんだよなコイツ。親友とはいえ男同士だろうが、キショいぞ。  「それで? どんな贈り物(ギフト)が欲しいんだ?」  「何でワクワクしてんだよ。  ……容姿を自在に変えられる贈り物(ギフト)とかあれば欲しい。髪色はともかく、俺この顔と体型嫌いだし」  「えーっ!!? 何で!?」  「バッ、声デケーよ……!」  「むぐぐ」  慌ててライの口元を抑えはしたが時既に遅し。周りからの視線が刺さりまくる。  見ないでー、俺達は人畜無害な単なる田舎者よ~。  「俺達が場違いって事くらい分かれよ、まったく」  「ご、ごめん、つい。でも何で嫌いなんだ?」  何でって、コイツ本気で聞いてるのだろうか? むしろ毎日つるんどいてどうして分かってないの?  「俺、性別としては男だろ?」  「おう」  「でも体型、細いだろ?」  「おう」  「じゃあ体型とこの顔面を含んだ場合、総合的な見た目は男か?」  「女の子」  「だからだよクソッタレ」  そうだよ。心は立派な男だし付いてるもんも付いてる癖に、俺の見た目はどっからどう見ても女子そのもの! しかも自他共に認める美少女ときたもんだ!  ざっけんな! 生まれてくる時に何をどう間違ったらこんな事になるんだよ! これこそ神様のイタズラだろ!  そこいらに居る子より可愛いせいで女子からは大変不評だよ! 主に俺の性別を知らない男共が寄ってくるせいでな! 男取んなってか!? いらねーわ! 俺は男だよっ!!!  しかも母さんが許可無く髪を切るなとめっっちゃくちゃうるせーから、髪型もロングである。これが余計に女の子っぽく見えるのに拍車をかけてる。  極めつけはこのライの存在。さっきも言ったがコイツの容姿は男として完成されている。金髪碧眼爽やかスマイル。絵に描いたようなイケイケ男子で将来は引く手数多な美青年に成長する事間違いなしだ。  当然、村の女子達はライの事を虎視眈々と狙う獣が如く。でも肝心のライは四六時中俺と一緒にいるからアタックもクソも無い。  ので、そのモヤモヤだったり鬱憤が全部俺に向けられてんのよ。  私のラインハルトくんを! このビッチ! 独り占めすんなボケが! ……みたいなさ。  いやうるせーわ! 俺が一番困ってるって分かれや女子共! このツラさを理解して1人くらい俺にも靡いてくださいお願いします!  「俺はいいと思うけどな~、ネムの容姿」  「うるせー。他の誰でもない俺が嫌いだっつってんだから、それでいいだろ」  まぁでも、きっと成長すれば男らしくなってくるとは思うし、今だけの辛抱か。完璧な女顔とはいえ、幸いにも整った顔立ちだ。  もしかしたら今後ライよりも男前になってモテる可能性だってあるのだからな、ふへへ。  「お次の方、どうぞ」  「ん? おい呼ばれてんぞライ」  何だかんだとじゃれ合っていたら、いつの間にかライの番が回ってきていた。結構並んでた筈なのに、意外と直ぐに終わるもんなのか?  「えー! 先に行ってくれよネム!」  「何でだよ」  「だって、やっぱ最初は怖いじゃん!」  「だからって親友を突き出そうとすんなよ。並ぶ時もお前のが早かったんだから、おとなしく逝ってこい。骨は拾ってやる」  「酷ぇ!」  黙れモテ男。俺は後ろからねっとりじっくり観察しててやるよ。お前がオモシロ贈り物(ギフト)を貰う瞬間をな! ははは!  「あの~、お待ちの方も大勢いらっしゃいますので」  「あ、すみません。ほら行けって」  「ちぇ~」  ペシッとライの背中を叩いてやれば、ブーブー言いながらも奥へと進んでいく。教会奥にはデカい石碑みたいなもんがあるけど、あれが神様? んなわけ。  んー、それにしても今案内してくれたシスターさん、すんごい美人だし、おっぱいもデカい。年上好きの俺にはどストライクだな。  あ、モテる贈り物(ギフト)でもいいかもしれない。それならこの容姿を差し引いてもおつりが来る。よし決まりだ。  ふふん、我ながら欲望まみれである。いやいやそれでこそ。この年頃の強欲っぷりを舐めてもらっちゃあ困るね。  「ふひひ」  「何笑ってるんだ? ネム」  「うわあっ!!? お、お前っ、何で戻ってきてんだよ!?」  気付いたら目の前にライが居た。  何なんお前? まさかこの期に及んでまだ尻込みしてるってのか?  「そりゃ、終わったからだけど」  「はぁ? 今行ったばかりだろ?」  「え?」  「え?」  何で「コイツ何言ってんだ」みたいな表情をされなきゃならないの?  「あの~、後がつかえてますので」  「わっ、ごめんなさいっ。よーしネム、次はそっちの番だからな」  「そりゃ分かってるけど……」  「大丈夫だって! 神様めちゃくちゃ優しいおじいちゃんだったし!」  ホントに何言ってんだコイツ。ものの数秒で戻ってきたくせに、どこでそんなジジイと話したんだよ。  「こほん。我らが神は人それぞれのイメージによって姿を変えられるのです。あなたの中のイメージが形を成し、目の前に顕現されたのですよ」  「へー、確かに想像通りの姿だった!」  揃いも揃って何なんだよコイツ等。でもシスターさんの「こほん」が可愛かったから深くは突っ込まない。よし、脳内保存完了。あとでリピートしよう。  にしても本当にどういう事だろうか。ライもシスターさんも嘘を言っているようには見えないし……んん~?  「まぁ行きゃ分かるか。よし、行ってくるわ」  「おう! 頑張れ!」  別に頑張るとかないだろ。贈り物(ギフト)貰うだけなんだから。……あっ。  「ライ、ちなみにどんな贈り物(ギフト)貰ったんだ? それとも無しか?」  「勇者だってさ」  この一言により、教会中が一気にざわつき始めたのは言うまでもない。  神様さ、コイツに二物どころか三物も与えんなよ。俺の影がもっと薄れるだろクソが。  「まぁっ……!」  わぁ、シスターさんもライの一言に感激してるぅ。頬も染めちゃってまぁ、もしかして年下好きでいらっしゃる? あはは。  ク ソ がっ !!!!
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