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これからよろしくね♪
⇨【花嫁を奪い去るが如くライをお姫様抱っこしてずらかる】
「ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「!!!?」」」」
……あれ? 口が、勝手にっ!?
「悪いがそいつは俺の生涯のパートナーだ! どこの馬の骨とも知らねぇビッチ共が気安く触るんじゃあない!」
生涯のパートナー!!? 俺何言ってんの!? どうなってんのこれ!? 俺の意思に反して言葉が勝手に出てくる!
まさか……まさかそんなっ! 選択肢を選んだ時点で、俺の行動すら制限されるというのか!? ふ、ふざっけんな変態野郎ぉぉぉぉ!!
「な、何よアンタ! 勇者様を独り占めしようって言うの!」
「やかましい! ソイツは今も昔もこれからも、俺だけの勇者なんだよぉ!」
「ネム……」トゥンク
お前もお前で何ときめいとんじゃボケ! そこは気持ち悪がれ! 俺の為に!
「そうはさせないわ! 勇者様は誰か1人の物じゃない!」
「その通りよ! 私達の共有財産であり、共通の旦那様だもの!」
コイツ等も謎にノリノリなのは何でだよ! あと勇者ってだけで旦那とか頭大丈夫ですか?
「くっくっくっ、愚かな女共め。ポッと出のモブ風情が勇者の寵愛を賜ろうなどと片腹痛いわ!
悪いが俺と勇者ライは幼馴染かつ親友であり、生まれた日まで同じというまさに運命の糸で繋がれているんだよ!」
「そんなまさかっ……!」
「おはようからおやすみまで一緒だしなぁ!」
やめろぉぉ!! 誤解を生む言い方すんな俺ぇっ!!
「既に裸の付き合いまでこなした間柄! ライの事は隅から隅まで把握済みだ! 尻にホクロがある事もバッチリよ!
まだまだ俺しか知り得ない情報はある! 分かるか? もはや貴様等に付け入る隙などないのだ!」
のだじゃねぇよ! もう黙れ! いらんことベラベラ喋んな! これじゃ俺が変態だろーがっ!!!
「ゆ、勇者様っ、本当なのですか!? 嘘ですよねっ?」
「んー、確かに基本的にはネムとずっと一緒だし、間違ってはいないかな。昔は風呂も一緒に入ってたよ。ホクロがあるのは俺も初耳だけど」
否定しろやぁぁぁっ!! バカお前! 察しろバカライ! いいんかお前こらっ、このままだと親友が変態道一直線だぞコラァッ! 助けろ!
あと何でちょっと照れ臭そうにしてんだ! やめろキショい!
「そ、そんな……!」
「悪いなモブ共。そういう訳で花嫁は貰っていくぜ」
「そうはさせな――」
「ふ、ノロいノロい」
止めようとしてくる女達の手を無駄に洗練された無駄な動きで躱し、攫い待ちの乙女みたいな顔してるライをお姫様抱っこして颯爽と駆け出す。
脇目も振らずに教会の入口から外へと飛び出し、俺は風になった。
ここまで、全部俺の意思じゃない。
言動も、行動も、謎に高い身体能力や力も、全部俺じゃない。おそらく全て運命選択によるものだ。
おい誰か助けろ。
――……。
「ネム、さっきの事だけど……こういうの、返事とかってした方がいいんだよ、な?」
「うるせぇ黙れ。その乙女みてぇな顔引っ込めろ引き千切るぞ」
「ええっ!?」
街の中を野郎1人お姫様抱っこしながら疾走させられていたら、いきなり体の自由が戻った。
これ幸いと人目につかない路地裏に駆け込み、ゴミを捨てるが如くライを放り投げて、俺は現在建物の隅っこで絶賛泣いてます。
あの変態マジで許さん。何だこのクソ贈り物、いやがらせでしかないじゃねーか。
……いや、だからこそあの時笑ってやがったのか。そりゃ笑うわ。行動を選択しただけであの奇行っぷりだものな。
「いいかライ。さっきの事は忘れろ。何がなんでも忘れろ。脳みそ弄ってでも忘れろ」
「そこまでなのか!?」
当たり前だろうが! 人生最大の汚点と言っても過言じゃねーわ! 何が悲しくて男なんぞをお姫様抱っこしなきゃならんのじゃ! しかもあんな大勢の前でベラベラとヤベー事喋ってさぁ!
あぁもう……絶対顔覚えられた。今後この街で堂々と歩く事すらできない。ふざけんなマジで。
「……分かった。ネムがそう言うなら忘れるよ」
「あぁ、そうして――」
【嘘に決まってんだろ。思い出の1ページに刻んどけよ☆】
【このままだとライがかわいそうだ。押し倒す♡(ライルート)】
【忘れたくても忘れられないように調教しゅる♡(ライルート)】
忘れさせる選択肢くらい用意しろボケぇっ!!!
どれ選んでもキショい上に俺のキャラが崩壊すんだろうが! 押し倒してどうすんだよ!? 調教してどうすんだよ!?
誰が男を娶るルートなんぞ選ぶかクソッタレぇ!!
⇨【嘘に決まってんだろ。思い出の1ページに刻んどけよ☆】
「なーんて冗談さ。お前の思い出にしっかりと刻み込んでおけよ☆」
「お、おお! 分かった!」
何でちょっと嬉しそうなんだよお前……。
「なんか今日はテンション高いな、ネム」
「ソウダネー。ナンデダロネー。オレニモワカラナイワー」
「はははっ、何だよその話し方。それで、ネムも贈り物貰えたのか?」
「…………まぁ」
「おー! やっぱり! 流石はネムだ!」
何が流石なんだろうねホント。コイツ昔っからやたらと俺に対する評価が謎に高い。
「どんな贈り物貰ったんだ!?」
「大したもんじゃ――」
【世界を揺るがす程の超ド級とんでも破壊級チート級で何かすっごいヤベー級のアレなやつだよ】
【下半身が元気になる贈り物だよ】
級級うっせぇな!? 語彙力皆無な上にハードル爆上げするような事言うなよぉ!! 下に関しては男なら誰でも備わってる標準装備だろうが!
⇨【世界を揺るがす程の超ド級とんでも破壊級チート級で何かすっごいヤベー級のアレなやつだよ】
「世界を揺るがす程の超ド級とんでも破壊級チート級で何かすっごいヤベー級のアレなやつだよ」
「世界を揺るがす!?」
「そうだよ」キリッ
「超ド級!?」
「そうだよ」キリッ
「とんでも破壊級!?」
「そうだよ」キリッ
「チート級!?」
「そうだよ」キリッ
「ヤベー級!?」
「そうだよ」キリッ
「凄いな!」
「そうだろ」キリッ
「で、超ド級ってどういう意味だ?」
【規格外のって意味かな】
【規格外のう○こに決まってんだろ】
何でそれを選択肢に組み込んだ!? いやたまに信じられないくらいぶっといの出る時もあるだろうけど、超ド級=う○こにはなんねーからっ!! 何にも決まってねーよ!!
⇨【規格外のって意味かな】
「そりゃお前、何よりも凄ぇって意味だよ」
「おおー! やっぱりネムは凄いな!」
お前それでいいんか。普通「あ、コイツ強がってんな?」くらい思わない?
……なんて今更過ぎるか。ライはたぶん、どんな事でも無条件で俺をヨイショしてくるだろう。しかも100%本気で言ってるから始末に負えない。
長年の信頼関係と言えば聞こえは良いが、その素直さ故に俺はお前の将来が心配だよ。悪い人に騙されそうでさ。
「俺は別にいいんだよ。つか、ライの方がとんでもないだろ」
「へ? 何でだ?」
「お前ね……贈り物の名称を言った途端に揉みくちゃにされたのをもう忘れたんかコラ」
「おー、確かに。いきなりだったからビックリしたぞ。街の人って意外とノリ良いんだな」
あ、コイツマジで分かってない。贈り物なんざクソ食らえ精神の俺でさえ勇者って言葉くらい聞いた事あるのに。
まぁ、あの女共が謎にノリ良かったってのは同意だが。結果的に俺の奇行を誤魔化すのに役立ってくれたから良いものの、普通だったらマジで痛い奴だもん、さっきの俺。
「アホ。じーちゃん曰く、勇者ってのは数多ある贈り物の中でも最上位クラスの大当たりだぞ。
まぁ詳細は流石に知らんけど、とにかく人生がまるっと変わる程度にはヤベー贈り物だ。自覚しろ」
「ほえ~、そうなのか。全然そんな感じしないけど……何か変わってる? どう?」
その場に両腕を広げて見せるライに思わずため息を吐いた。
そんなパッと見で「あ、コイツ勇者だ!」って分かるんなら苦労しねーよ。そうなったら教会で起きた以上の大騒ぎだろうが。
【めっちゃイケメンじゃん。抱いて】
【めっちゃムラムラする。抱かせて】
【すげー格好良くなってる。0.1割増しくらい】
ねぇぇぇぇもぉぉぉぉぉぉっ!! こんなどうでもいい事でいちいち選ばせんなよ! 明らかにおかしいやつ混ぜんのやめろや!
抱きもしねーし抱かれたくもねーわ! そりゃライが女だったら……いや、大前提に親友だから性別関係ねーな。
⇨【すげー格好良くなってる。0.1割増しくらい】
「すげー格好良くなってる。0.1割増しくらい。ほんっっっっのちょびっと」
「えっ、そうかな? ははは」
嬉しがんなよ。もはや誤差なんだよそれは。
「でもさ、その凄い贈り物を貰えたからって、これからどういう人生を送るのかは俺次第なんだよな?」
「そりゃあな」
「だよなー」
「……あ? なんだよ」
何かライが意味深に見てくるんですけど。いや、今回に限らず、前々からライはたまーに俺を見つめる事があった。
何見てんだって指摘しても、毎回の如く爽やか笑顔で流されてしまう。今回も例に漏れず、小さく微笑んで誤魔化された。
うん、ずっと思ってたけどキショいからやめような? そういうのは女にやれバカタレが。
「それよりこれからどうする? せっかく街にまで来たんだし、ちょっと遊んでから帰る? 予定より早く終わったしさ」
「んー」
魅力的な提案だし、本来ならノリノリで街中に繰り出してるところではある。ちょっと遊ぶくらいなら多少は家の手伝いに遅れても大丈夫だからな。
しかし悲しいかな、今の俺は運命選択のせいでいつまた奇行に走るか分からない状態だ。そのまま考え無しに行動なんてしてみろ、大惨事だ。主に俺の評判が。
ここはおとなしく家に帰るのが正しい選択――。
【お互い全裸になってどっちが先に衛兵に捕まるか勝負する】
【ナンパ勝負だ。お前は女引っ掛けてこい、男は任せろ。夜はお楽しみといこうぜ】
【遊ぶなど愚の骨頂。最強と名高い剣聖に限界ギリギリまで鍛えてもらおう】
……嘘やん。
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