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最終話:私は愛を知り、そして旅立つ
私と彼が結ばれるまでにそう時間は掛からなかった。私達は図書館で秘密の逢瀬を重ね、大学の外でも会って、ピルチャーの話や、他の作家の話も沢山したわ。色々な本の話をして、色々な事を発見して、学んだ。そして彼と私は同じ感情を共有し、愛を深めて行った。
大学を卒業して、彼を両親に紹介した時、彼が一回り年上だって知った両親は面食らっていたっけね。でも、彼を取り巻く優しい空気が両親の緊張をほぐして、そして私達は結婚して、そしてあなたが生まれたのよ、美咲……。私達はあなたがピルチャー作品に出て来る美しい花のように育って欲しいと、『美咲』と名付けたの。
◆
「ママ、その司書さんってパパだったんだ」
「そうよ。パパはこの世で一番ママに愛を教えてくれた人なの」
「……素敵。大人の愛って良く分からないけど、ママとパパの愛の結果が美咲って事?」
「そうよ、美咲。だからあなたはあなたの事を一番思ってくれる人を見付けるのよ。そして愛を知っていくのよ」
「ママ……なんだか遺言みたいで嫌だ……」
それから私は半年間を病室で過ごした。末期の乳がんだった。発見がもう少し早ければ助かったかもしれないと聞いた時、私はがん検診に行かなかった事を激しく後悔した。
ああ、美咲、そして誠也さん。あなた達と過ごした十数年間はとても幸せだったわ。愛をたくさんもらったし、注いだわ。悔いがあるとしたら、美咲の成長した姿を見られないって事かしら。
誠也さん……私はピルチャーと同じ天国に行けるかしら。彼女の作品に出て来るコーンワルの様な土地が天国だったら良いわね。私はそこであなたを待つわ。私に愛を教えてくれてありがとう。天国に行っても、きっと新しい発見は沢山あるわね。あちらの世界にも本は沢山あるかしら?
私は今、とても安らかな気持ちだ。そっと目を閉じる。ピルチャーの作品に出てくる舞台を想像する。きっとあの世界に行けるのよ。そこで私はあなた達を待つわ。決して急いでこちらに来ないで。私はのんびりと読書をして待っているから。
だからね、私はあちらの世界から愛をあなたたちに降り注ぐから。いつも感じていてね、私を……愛してる、ありがとう……。
────了
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