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3.ピルチャーとの出会い
ある日、イギリス文学の棚に行ってみると、その作家の作品の並びに妙に惹きつけられたの。
「ロザムンド……ピルチャー?」
聞いたことの無い作家だった。ロザムンドおばさんシリーズや、長編の作品もあるようだった。
私はそっとその作品を手に取ったの。柔らかい印象の絵が描かれた装丁に心惹かれたわ。何となく懐かしい気がして、私はその棚から数冊を手に取ってカウンターに行ったの。
「これ、お願いします」
「はい……ん? ピルチャーですか。あなた、なかなかお目が高いですね」
眼鏡を掛けた男性司書が、そう話しかけて来た。
「そ、そうですか? 私も初めて読むんです……」
「お勧めですよ、ピルチャーは。特に『九月に』と『シェルシーカーズ』の連作が良い」
今まで事務的なやり取りだけしかした事のなかった男性司書が、この日は饒舌だった。
その時、私は初めて彼の目を見たの。
──優しい目。
穏やかな口調に、眼鏡の奥にある優しい瞳。笑顔が素敵で、それは急に天から花びらが降って来たかのような感覚だった。
そう、私は恋をしたの。この男性司書に。
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