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1.病室にて
外は秋らしい雲が高い青空で。でもここは殺風景な白い部屋で。無機質なレイアウトに消毒臭い空気。いつも誰かの足音が響いていて、ゆっくり眠ろうにも眠れない。ここでは、本だけが私の心の拠り所だった。
「だからね、ピルチャーおばさんの作品を読むとね、心がほわぁぁって温かくなるの。愛って良いな。日常って良いな……って。何でもない日常にこそ、本当の幸せがあるのよね。そんな事を発見させてくれるのが、ピルチャーおばさんなの」
私は愛しい我が子にそう諭す。この子、美咲には絶対に幸せになって欲しい。まだ十二歳の子だけど、これから先、優しく、強く、しなやかに育って欲しい。
「ママ……愛って何なの? 美咲にはまだ良く分からないよ」
美咲は私のベッドにもたれかかってそう聞いて来た。
「愛……それはとても説明が難しいわね。そうね、昔の話をしてあげようか……」
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