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 いくらもせずに到着したのは、山の中にある廃屋だった。人は住んでいないが、そばには祠が一つ建てられている。廃屋と祠の前には、十匹ほどのモクリコクリが既に集まっていた。彼らは顔を突き合わせてざわついている。 「何があったんだよ」  マルでは話にならないので、シイは近くの仲間に尋ねた。なんでも、祠の供え物を勝手に食べていた輩がいたらしい。見つかった途端、そいつは慌てた様子で、廃屋の雨樋の中に逃げ込んだそうだ。 「ここです」  軒先の下から、仲間が指さす方を下から上へ視線でなぞる。地面から雨樋がにょっきりと伸びていて、天辺には草が生えている。屋根の上では一匹の仲間が雨樋を見張っていた。この中に、泥棒が隠れているらしい。 「誰か中に入らなかったのか」  ぐるりと見回すと、モクリコクリたちは短い首を左右に振った。 「長の助言を聞いた方がいいかと思って」 「マルがシイ様に助けてもらうって、一目散に飛んでいったんです」  ふむとシイは両腕を組んだ。自分も長の倅である。親父の代わりに解決してやろうじゃないか。 「よし、オレさまがなんとかしてやる」 「ほんとですかー!」  マルが嬉しそうに飛び跳ねた。シイは長いひげを指先でピンと伸ばした。 「そいつが上から逃げないか、気を付けてろよ」  近くの二匹が屋根の上に飛び、計三匹が雨樋のそばに陣取った。シイは地面側の出入口に寄り、こんこんと雨樋を叩く。 「おーい」  中に頭を突っ込んで呼びかける。やまびこのように声が反響するが、返事はない。 「今のうちに出てきた方が身のためだぞ!」  その台詞にも、相手は応答しない。 「そっちが来ないなら、オレさまが行くからな!」  そいつが身じろぎしたような振動が伝わる。シイは雨樋を通れるほどに身体を小さくし、暗い管の中に入り込んだ。見上げると、穴をふさぐ何者かの隙間から、細い日光が差し込んでいる。逆光になっていて、相手の姿かたちはよく見えない。  突如、その黒い塊が上へ飛んだ。「逃げた!」シイは大声を上げ、自分も天井側へ飛び上がる。すぐさま雨樋から出ると、瓦の剥げた屋根の上で三匹の仲間が盗人を取り押さえていた。
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