16. 灯(ともしび)

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 やっと解放された頃には、既に午後を大きく回っていた。二人が警察署の前に姿を現すと、待っていたらしき人影が一つあった。 「……待った?」  涼し気な唇が戸惑うように開いた。二人の内一人は片方の杖で体重を支持しながら、びっこを引いて待ち人に近づいていく。一方が一方に軽く肩を貸していた。(一人は以前より衰えているものの)鍛えられてはいるが、両人とも細面でスレンダーな体型なので殊更痛々しく見える。 「待つっていうか、いつ出て来るかわかんないから、その辺ブラついてたよ」  特に約束などしていたわけではないのだ。三つの影の視線は暫時お互いの顔の上をさまよい、やがて落ち着いて笑いあった。 「はいよ、これ」  海原伊代は、銀色に光る棒状のモノを差し出した。真ん中にスジが入っている。 「あ、これ、どっちに渡したらいいの?」 「こっちだよ……ってか、あんたがやったんだ」  二人の内一方が苦笑とともに手を挙げた。同じ顔だから見分けがつかないのだ。 「了解。じゃ、あんたが紅葉ね」  二人の身体で周囲から隠れるように注意して、伊代は紅葉に銀色の棒を手渡した。 「身体検査した時出てこなかったから、おかしいと思ってたんだよ。ま、助かったけどね」 「落ちたりしないように、ちゃんと仕舞って隠しときなよ。今、持ってるだけでダメなんでしょ?」 「母親みたい……私、母親いないけど」  「代わりにはなれないよ」  三人の娘たちは、再び笑いあった。 「じゃ、来る? どうする?」  伊予は握った手の親指で自分の後ろを指した。 「まあ」 「いいか」  四季と紅葉はお互いの顔を見て確認しあう。 「よし。じゃあついて来て」  伊予は振り向いて、背中で先導するように歩き始めた。
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