13. 焦点

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「足摺ファビュラス映画祭・審査員特別賞、四条畷国際ドキュメンタリーフィルムフィスティバル・準グランプリ……結構熱心にやってたんだね。どうりで玄人はだし」  確かに会場の熱気に巻き込まれず、メンバーの細かい仕草や表情の的確なチョイス・特徴的なファンの様子など、その時の状況をよく撮れている気がする。 「まぁインディーは慢性的に人手不足だし、シミタツさんも半分くらいスタッフみたいになってたのかもなあ……」  そうか。シミタツもこの時現場にいたのか。まあ、当たり前っちゃ当たり前か……。  疲れた頭と身体でぼーっと映像を眺めていた尾鷹葉子の脳内で、突然何かが繋がったような気がした。 「ど、どうしました?」 「いや、ちょっと待って」  まだだ、まだ弱い。薄い。はっきり、見えるように。  葉子は勢いよく身体を起こし『NEO NECO!』バックナンバーを漁っていたが、目当てのものは出てこなかったようである。 「蕭何カレンが引退した理由ってなんだっけ?」 「蕭何カレン……さんですか? ユメラビの。さあ、よく把握してません」  続いていくつかのワードを検索してネットで何かを調べる。少し時間がかかったが、やっと目的のものを見つけたらしい。 「ほら、これ」  心なしか得意げである。  ユメラビ絶対エースだったとはいえ所詮はインディーズのアイドル。大手メディアのニュース記事はとっくになくなっていたらしく、葉子の示しているのは怪しげなゴシップまとめサイトであった。とりあえず表題でGoogle検索して裏取りはしているようだ。  記事によると、蕭何カレン他数名のインディーズアイドル(ユメラビの者もいた)が違法薬物の所持・使用で補導、ということであった。確認してみるとユメノラビュリントス解散の数週間前のことで平仄は合う。このサイトは雑誌記事もソースにしているらしいので、本格的に裏取りするなら雑誌も確認しなくてはならないが、情報資料室内を探せば多分あるだろうからそれはそこまで苦ではない。  それよりも、 「ぐわー、迂闊だった! そういうことか……」    葉子はもう、事件が解決してしまったように一息ついて完全にリラックスタイムに入ってしまっていた。思い出したようにクロッキー帳を手に取り、何かを確認し始める。 「? これ、EIFから結構経ってますし、あまり関係なくないですか?」 「芋づる式ってやつだよ。ネオネコの記事でEIF関係者の薬物汚染のことが表沙汰になって、マトリか警察かなんかが動いたんでしょ。EIFで捕まえた奴らから、証言だけ取って泳がせてたんだよ。なにネンネみたいなこと言ってんの」  言ってしまってから、葉子は横目で雪枝をジロジロ眺め回した。そのニヤニヤ笑いはあまり品の良いものではない。 「あれ? もしかしてわかんなかったり?」 「え? そこまでですか?」  雪枝は目を丸くしている。隣の同僚が、何に対してここまで確信を持っているらしいのかよくわからない。 「そこまでだよ。わかった。多分、完っ璧にわかった。違ったら私が全部の責任持ってもいい。昔の推理小説なら〝読者への挑戦〟入れるとこだよ、今」  言われて雪枝は人差し指を顎に当て、伏し目がちになった。懸命に頭の中で事件を再構築しているようだ。 「夕山四季・真希って確か本名だよね?」 「ええ、字も同じですね」  雪枝は狐につままれたような顔をしている。 「点、と点をだねー、ユッキー」  葉子は指を空中に這わせ、でたらめな図形を描く。 「線で結ぶわけさ。そうすると浮かび上がってくるカタチがあるのよ~」  完全に調子に乗っている。 「待ってください。少し考える時間を……」 「いや、急いでんでしょ?」 「少しだけ……五分くらい」 「いやいや、説明するから! ごめん、ごめんって」  本気で考え始めた雪枝を見て、葉子の方が狼狽してしまった。すぐに真面目モードに切り替えた。わかりました、と雪枝は本当に不承不承といった様子で頷いて見せる。  葉子はまず、自分の手に持っているクロッキー帳を示した。後半のページを開き、 「ほら、よく見てみなユッキー」 一つ一つ丁寧に解説していく。  雪枝は真剣な面持ちで耳を傾けていたが、やがてその瞳は見開かれ異様な輝きが灯り始めた。
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