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「あ、数凪さん。お久しぶりです」
雪枝が深々と頭を下げ、みながそれに続く。
「な、なんか面白そうな要素ありました?」
背丈は雪枝たち六人の中で一番高い大江なりより、指二本分くらい上だろうか。しかし、肥満体形というわけでもないのに、何故か大柄に感じる女性だった。手足が長いからだろうか。髪は天然パーマ気味のものを短く切りそろえて爽やかな印象である。
彼女の名前を縁間数凪といった。雪枝たちがSNOWになる前、同じアイドルグループに属していたことがある。
とはいっても、雪枝たちは前のグループでは研修生という名の二軍で、雪枝以外のみんなは数凪と話したことは数える程しかない。
「いやー、まー、なんだろうなー……。フンイキだよフンイキ」
片掌をひらひらさせて、ニコニコ笑っている。顔の造作自体はキリッとした美人顔なのだが、どうにも溢れ出る愛嬌を隠しきれない人物であった。
「数凪さん、それ」
雪枝が目聡く見つけたそれは、スタッフ用のネックストラップであった。普通裏方の人間が首から掛ける名札で、演者は着用しない。
「ああ、これね」
縁間数凪は指で摘まんで振って見せる。
「私、今アイドルやってないからさ。関係者ってことでバックステージに入ってきてんの」
そうなんですか、と言いながら雪枝は自らの記憶を探ってみる。そう、確か……
「千代エージェンシーってとこで裏方っつうか、雑用みたいなことしてんだけどね。ちょうどこっちに用があってさ」
そうだった。雪枝の記憶では数凪は千代エージェンシーで〝マネージャー兼プロデューサー見習い〟をやっている、ということになっていたが、それを〝裏方・雑用〟と言ってしまうところが、いかにもこの人物らしい言い方だ。
「ざ、雑用ですか……数凪さん、あんまりそういうの向いてないような印象だったんですけど……」
沙希がおずおずと口を出す。前グループで下っ端だった者たちからすると、数凪は強面のイメージなのだ。
「あー、なんか私みたいな大雑把な感じのほうが、上手くいく時もあるんだってさ。よくわかんないよなあ、芸能界って」
ハハハ、と歯を見せて屈託なく笑っている。
「いや、そんでさ、今日雪枝ちゃんたちに会いに来たのはさ、ちょっと頼みたいことがあるんだよね」
一拍置いて、数凪は真面目な顔付になった。
「私今、千代エージェンシーにいるって言ったでしょ? ほら、最近あそこで事件あったの知らない? あれのさ……」
「ストップ! です、数凪さん!」
雪枝は慌てて数凪の口を閉じさせた。周囲の他グループのアイドルたちが、ちらりとこちらに視線を向けてくる。
最近千代エージェンシーで起こった事件……を、雪枝といえども全て把握しているわけはないが、一番記憶に残りやすい大きな出来事といえばあれだろう。
「それって……その、〝L⇆Right!〟さんの?」
声をひそめ、雪枝は言いにくそうにこれだけ囁いた。数凪もつられて深刻そうな顔になり、声のボリュームを落とし〝う、うん〟と頷く。他のSNOWの面々、なりも顔を寄せてくる。ざわついている周囲の話し声が急に大きくなった気がした。
…雪枝や数凪たちの様子を気にしている者はいないようだ。
「そう。あの、真希が窓から落ちて」
再び雪枝はストップをかけた。
「数凪さん、多分ですけど、その話ここでしない方がいいんじゃないでしょうか?」
きょとんとした顔をしていたが、数凪は急に〝あ、ああ、そうだな!〟と膝を打った。
「うん! ここ人たくさんいるし、ちょっとアレだな! お前やっぱ頭良いな! 十子さんの言ってた通りだよ!」
肩をポンポンと叩かれ、雪枝は困ったような顔で応対している。
「この人怖いわー……」
葉子は横目でその様子を眺めながらぼそりと呟いた。
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