15. ヒューマン・ファクター

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「プロジェクトの宣伝も兼ねて……っていうかそれが主なんだからね。ケンカのほうが面白かったら、みんなそっち書いちゃうよ! あくまでも記者さんには大型アイドルレーベル誕生への期待を衝撃とともに書いてもらわないと」 「メディアの囲い込みとか支配とかってしてないの?」 「そんなのしてたら『NEO NECO!』で全部書いちゃうわよ」  大和兎も素知らぬ顔で口を入れてきた。 「そっかー」  あはは、うふふ、と笑い合う女二人を、達夫は苦虫を噛み潰したような顔で見ている。 「……そうだ、ちょっと数凪ちゃん、あの二人の間に入ってケンカやめさせてきてよ」 「えー? そんなの出来るのかな」 「出来る出来ないじゃないよ! やるの。数凪ちゃんってゆくゆくはプロデューサー目指してるんでしょ? そういうスキル必要だって、絶対」    達夫の喋りに、だんだん熱が入ってくる。言葉にしていく内に本気になってきたようだ。 「じゃあ、シミタツさんの手本見せてよ」 「手本……あ、そうだ。僕ちょっと会場見て来るよ。そろそろ人集まって来てんじゃないかな」  忙しそうに、せかせかした動作で有無を言わさず部屋を出て行ってしまった。 「あれは確かにスキルかもね」  紙魚達夫が出て行った白いドアを見つめながら、兎は呟いた。 「ねぇ、スゥちゃん。本当にやってみてもいいんじゃない? ケンカの仲裁」 「え? マジでですか?」  数凪は目を丸くする。 「何事も経験よ。それにスゥちゃんの言うことなら、あの二人も聞くかもしれないし」 「う~ん。別にどっちともそんな仲良くないけどなあ……」  しかし、やってみるか、という気になった。  ツカツカと歩み寄り、まずはChaosに向かって 「なあオッサン、ムカついてんのもわかるけどさ、ハタから見てたらあんたいっつも態度悪いよ。ここは一つ……」 「誰がオッサンだ!」  Chaosはいよいよ激昂した。体中の血が顔面に集まったように真っ赤である。頭髪が内部の圧力に耐え切れず、今にも天井に突き刺さりそうに見えた。  ナミサヤカは再び、何かに憑かれたようにケタケタと大口を開けて笑っている。 「……君、悪いんだが今は容喙しないでもらえるかな?」  朱英も冷や水を浴びせるような調子で数凪に相対した。Chaosは口角泡を飛ばして、頻りに〝敬意が〟とか〝礼儀を〟といった言葉を交えながら数凪を罵倒している。   「無理だった」 「無理だったか~」  大和兎は苦笑しつつ、部屋の端で数凪を迎えた。  数凪はため息をつきつつ時間を確認し、 「これ、マジで間に合わないかもしれないですね。私もちょっと現場行ってきます」 「え? ステージに行くってこと? 行ってどうするの?」 「間を持たせようと思って。シミタツさんもいれば二人で」  当然のように言った。 「あっ、ああ、そうか。スゥちゃんってそういうの出来る人だったか」  兎の不覚である。数凪はこれでも元アイドルなのだ。 「じゃ、ちょっくら行ってきます」    数凪は軽く会釈して、扉へ向かった。出る前に、ちらっと怒号が飛び交う方を見てみる。葉埼朱英とChaosは相変わらずお互いしか見えていなかったが、サヤカは数凪に気付いた。  ニコニコ笑いながらこっちに手を振ってくれる。悪い気はしない所作だった。 『やっぱ、あの人なんか好きだな』  数凪は手を振り返し、控室の外に出た。会場の方からは、もう独特の音のこもったざわめきが聞こえてきた。  ここはとある駅前複合施設のイベントスペースである。音響設備等も一応揃っており時折ミニライブなども開催される。昨今はオンラインのストリーミング配信などにも対応しているようだ。  よっしゃ、行くか。自分の両頬を叩き気合を入れ直したその時、一際大きい歓声が会場の方角から聞こえてきた。  ……歓声? 悲鳴のような叫びも混ざっている気がする。  いや、歓声にしても悲鳴にしてもおかしいのだ。今日は別にアイドルが来ているわけではない。大物五人しても、そういう性質の人々ではなかった。  何か、どこかで聞いたような声が耳に入った気がした。SNOWの誰かだろうか? 『あ、いや、シミタツか?』  しかし今、どうも目立って聞こえるのは紙魚達夫の叫び声のような気がする。パニックになっているような様子だ。  警察、警察、と喚いている声も聞こえる。……これも達夫のものか。 『なんかあったな、これ』  数凪がおっとり刀で駆け付けようとした直後、混乱した物音がこちらに向かって近づいてきた。
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