カミキリびより

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 そのカラスは、虚無より生まれおち、右も左もわからぬままに、人肉をむさぼろうと翼をはためかせた。  町には子どもがすんでいた。  彼らは皆、夜をしらない。  太陽はいつまでもしずまず、夕刻で時がとまっている。  だから、月のかたちや、星のかがやきをしらなかった。  町の周りは、霧がただよう、おおきな山にかこまれている。  山には、牙をもつ、危険な獣がひそんでいて、子どもたちをとらえる機会をうかがっている。  そして、山の奥深くには、巨大なカラスがすんでいた。  夜をしらない子どもたちは、いかにして一日の終わりを悟るのか。  それは、日の終わりに訪れる、巨大カラスの影をみることで、把握するのである。  カラスは毎日、獲物をもとめて、かならず、町にやってくる。  カラスは、子どもの首を噛みきり、頭をくわえて、夕陽のほうへきえてゆく。  だれがいいだしたのかは不明だが、いつしかカラスは「カミキリカラス」とよばれるようになった。  名前は影のように、町のいたるところについてまわった。    これは、この町にすむ少女「ヒミコ」の物語である。
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