ポールを誰が殺したか?

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ポールを誰が殺したか?

「お兄様、助かって良かった」  クリスティ王女はカール王子に駆け寄った。 「それにしても、お兄様がポール兄さまだったなんて・・・」 「僕もびっくりだよ、クリスティがニーナだったなんて」 「会えてよかった・・・」  前世で生き別れた兄妹の感動の再会。お互いに知らなかったのか・・・ 「200年前みたいに死んでしまうかと・・・」  クリスティは涙を流してカール王子に寄り添っている。 ―― っていうか、アンタが矢を撃ったよね?  私を狙ったとはいえ、カール王子が重傷を負ったのはクリスティ王女のせいだ。  それに、回復魔法を掛けるのが遅れたのは、アンタ(クリスティ王女)が長話していたからじゃないのか?   私はそう思うのだが、自分の世界に入っているクリスティ王女に何を言っても無駄な気がする。だから余計なことは言わないことにした。  それにしても、クリスティ王女の『200年前みたいに死んでしまう』が私にはよく分からない。  200年前に死んだ? 何のことだ?  私がそう思っていたらカール王子がクリスティ王女に話しかけた。 「ニーナ、僕から説明するよ」  カール王子はそう言うと説明を始めた。 「まず、僕がポールだったとき、マデラ共和国の独立をコードウェル王国とサンダース王国と交渉していた。両国の王族や貴族はマデラ共和国の独立を認めていたのだけれど、国民はそうではなかった。家族や親族が離れ離れになってしまうからね」 「その話は聞いたことがあります」クリスティは小さく言った。 「マデラ共和国の独立に反対する国民がかなりの数だった。だから、僕は一つ策を講じた」 「策を講じた?」 「うん。交渉が成立した帰りに、僕が誰かに殺される作戦だ」 「お兄様が誰かに殺される?」 「そう。国民の怒りは森の教会やその信者に向けられているわけではなかった。国民の怒りは、マデラ共和国の独立を首謀する僕に向けられていたんだ」 「え?」 「だってさ、森の教会の信者は両国の国民の家族や親族だからね。自分の身内を恨んだりしないでしょ?」 「それはそうだけど・・・」 「だから、僕が死ねば両国の国民の不満はかわせると考えた」  クリスティは少し混乱している。 「考えた?」 「そうだよ。そういう作戦だった」 「じゃあ、お兄様は死んでいなかった?」 「うん。僕だって死にたくなかったからね。死体は事故で死んだ僕に似た男性のもので偽装したんだ」 「・・・」  カールは静かにクリスティに言った。 「ほとぼりが冷めたらニーナにも伝えに行くつもりだった。でも、その間にニーナの病気が悪化してしまって・・・」 「この首飾りはお兄様の形見だったのでは?」  クリスティはそう言って羽の細工のある首飾りを見せた。 「それは僕が生きているという意味で送ったのだけど・・・誤解させてしまったみたいだね」 「そんなこと・・・分かるわけがないじゃない!」  カールは泣き崩れたクリスティを抱きしめた。  私は二人をずっと眺めていた。 ***  私が森の中を歩いていたら、カール王子がシルバーウルフのジョンと遊んでいる。 「あら? カール王子、いつまでここにいらっしゃるのですか?」  私はぶっきらぼうに言った。 「他人行儀な言い方やめてよ。僕はポールなんだからさー。二人の時はポールと言ってくれない?」 「はいはい」 「『はい』は一回の方がいいと思うよ」 「うるさい!」 「それにしても、本当に不思議の国のアリスになったね。昔、『アリスだったら名乗ってもいい』って言ってたよね。これからは魔王じゃなくて、そう名乗ったら?」 「いーやーでーすー! 前世の発言は現世では無効ですー」 「いいと思うんだけどな」 「早く帰らないと、ブラコンの妹に怒られるわよ」 「ブルックス帝国に訪問することになってるから、数日は大丈夫だよ」 「カラ出張? ポール、あなたは昔から全く変わってないわね」 「それに、僕が来なかったらケイトは悲しむだろ?」 「うーん、どうだろうな?」 「ひどい・・・、僕が死ぬ時に「逝かないでー」って泣いてたのに・・・」 「忘れた! そんなこと覚えてない!」 「あー、赤くなったー」 「うるさい・・・」  ポールは改まって私に語りかける。 「昔は一緒に住んでいたのに。僕がここにいても構わないでしょ」 「王子はお城にいるものでしょ?」 「そういう先入観は良くないなー」 「本当に面倒くさいわね」 「よく言われる」 「知ってる」 ―― この面倒くさい感じ、懐かしい・・・ 「ねえ、ポール」 「なに?」 「ありがとう。私に会いに来てくれて・・・」私はボソッと言った。 「なんて言ったの?」とポールは私に聞き返す。 「ありがとう、っていったの」  私は小さく答えた。 「え、なんて?」  意地悪く聞き返すポール。 「なんでもない!」  私は笑顔で言った。 <おわり>
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