オークの子供を助け出せ!(アリスの話)

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オークの子供を助け出せ!(アリスの話)

 カール王子と城に到着した私は、まず国王の執務室を訪問した。カール王子は、国王にゴブリンのホルトから聞いた情報を伝える。  キャンベル伯爵が領地拡大のため森に侵入しオークと戦闘が始まり、その過程でオークの子供を人質にとったこと。オークは子供を取り返すためハース城に向かっているから、このままでは戦闘が避けられないこと。オークの子供を解放すれば、オークとの戦闘を回避できる可能性があることだ。  話を聞き終わると「すぐにオークの子供を解放せよ!」と国王はカール王子に言った。これでオークとの戦闘を避けられる可能性がグッと高くなる。  許可が下りたので私たちが国王の執務室を退出しようとすると、国王が「その女性は?」とカール王子に聞いた。いうまでもなく、その女性とは私のことだ。カール王子はオークの子供の話に夢中で、私を国王に紹介することをすっかり忘れていた。 「こちらはワイバーンの件でお話ししたアリスです。今回のオークの件もアリスに相談にきたゴブリンから情報を得ました」 「そうだったのか。そなたがアリスか。昨日はビアステッド村を救ってくれて感謝する。今日も貴重な情報をかたじけない」  国王は私に礼を言った。 「滅相もありません。オークの子供たちが暴れると危険ですから、私が責任をもって東の森まで連れて行きます」 「それは有難い」 「オークとの戦闘がこれ以上激化するとハース王国に甚大な被害が生じます。国王からキャンベル伯爵に東の森から退去するように伝えてもらえないでしょうか?」 「分かった。そのように指示しよう」 ***  国王の許可を得た私とカール王子は、オークの子供を牢獄から解放した。ちなみに、私たちが牢獄に到着したときは、オークの子供は牢の中で怯えた様子だったが、私の顔を見ると側に寄ってきて大人しく従ってくれた。  待機してもらっていたゴブリンのホルトを連れて東の森へ向かう。カール王子の護衛のために5人の従者も一緒だ。  東の森に近づくと、キャンベル伯爵家の一派が築いたバリケードが張られていた。オークたちの侵攻を防ぐのを目的としたものだろう。  私がカール王子とバリケードに近づくと、キャンベル伯爵家に雇われた監視員がやってきた。  カール王子に気付いた監視員は「これはカール王子、どちらへ?」と尋ねた。 「王命だ。オークの子供を親の元に返しに行く。それと、直ぐに連絡がくると思うが、これ以上の戦闘を避けるためにここから撤退せよ!」とカール王子は言った。 「え? 王子が行かれるのですか?」 「そうだよ。僕だけじゃないけど」 「この付近には狂暴なオークが現れます。王子は動物をたくさん引き連れているようですが、この人数では危険です」  監視員の言う「たくさんの動物」とは私の周りにいる動物のことだ。犬、猫、鳥に混ざってオークとゴブリンも含まれている。 「大丈夫だよ。ワイバーンから村を救った英雄が一緒だからね」 「その英雄は何時(いつ)いらっしゃるのですか?」  監視員には、王子と従者は英雄には見えないらしい。もちろん、私も英雄には見えない。 「違うよ。ここにいるよ」とカール王子は私を指さした。  私は「どうも」と監視員に会釈する。  監視員は驚いたものの、カール王子が冗談を言っているのではないことを理解したようだ。私たちをバリケードの入り口へ案内した。 ***  バリケードを越えた私たちはゴブリンのホルトの案内で森の中へ進んだ。森の奥に進むにつれていろんな種族の魔物たちが私の周りに集まってきた。私は動物と魔物を引き連れて森の奥へ歩いていく。  カール王子と従者は、初めのうちは魔物がやってくるたびに「うわぁ」とか「うおぉ」と驚いていたものの、魔物たちに敵意がないことが分かると騒がなくなった。  私たちがしばらく進むとオークの群れが暮らす洞窟に到着した。ゴブリンのホルトが洞窟の中に入ってしばらくすると、中から巨大なオークが出てきた。体長は約3メートル、子供のオークとは比べ物にならないほど大きい。 「オークジェネラルだ。はじめて見た・・・」と従者は驚いている。  オークは私の前にやってくると跪(ひざまず)いた。 「子供を助けていただいて、ありがとうございます」 「いえ、当然のことをしたまでよ。それにしても、あなたも人間の言葉を話せるのね。ホルトよりも上手だわ」 「上位種になると人間の言葉を理解できます。私はオーク族の長のグレコです」 「はじめまして。私はアリスです。一緒に来たのは、ハース王国のカール王子とその従者の方々です」私は簡単な自己紹介をした。  オークジェネラルに驚いていたカール王子は、勇気を出して一歩前に出た。そして、グレコに話しかけた。 「この度は、ハース王国の者がすまないことをした。国王からその者には退却するように命じたからすぐにいなくなると思う」 「そうですか。私たちは魔物の暮らす場所を守りたいだけで、人間に対してむやみに攻撃したいわけではありません」 「そう言ってもらえると有難い。私は他の種族との共存共栄を望んでいるのだが、残念ながら人間の中にはそう思わない者がいる」 「今回のように?」 「そうだね。将来的には種族の隔てなく交流できたらと思っているのが、しばらく時間は掛ると思う。だから、ハース王国とこの森の魔物との間で不可侵条約を締結するのはどうだろうか?」  カール王子は予定にないことをグレコに提案し始めた。 「不可侵条約?」 「ハース王国はこの森を侵略しない、この森の種族はハース王国を攻撃しない。そういう内容だ。もちろん、友好的な交流は歓迎だよ」 「私たちは暮らせる場所が確保できれば問題ありません。もし、1つの種族が暮らしている場所がなくなれば、そこで暮らしていた種族が別の場所にいきます。そうすると、種族間で争いが起きるのです。私はそれを避けたい。なので、不可侵条約には賛成です」 「よかった」  グレコは不可侵条約の提案に裏が無いかを考えているようだ。 「我々にはメリットがありますが、人間側に不可侵条約を結ぶメリットはあるのですか?」 「もちろん。ハース王国は、国土の西側をブルックス帝国と接している。ブルックス帝国とは休戦中だけど、いつ攻めてくるか分からない。だから、国内の戦力はできるだけ西側に配備したいと思っている。ハース王国の東側を警戒しなくてよければ、戦力を西側に集中できる」 「ああ、そういうことですか。人間同士も揉め事が多いのですね」 「そうだね。人間の方が厄介だと思うよ」  これで、魔物との戦闘は回避できそうだ。  ハース王国と魔物との不可侵条約を進めることを確認して、私たちは森を出た。
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