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お金や物じゃない褒美?(アリスの話)
私たちが東の森を出たら辺りはすっかり暗くなっていた。帰りはカール王子と従者が私を家まで送ってくれた。
「オークの子供を無事に帰して魔物との戦闘が回避できた。それに、今後の揉め事を防ぐための不可侵条約も結べそうだ。アリスには感謝しかないよ。ありがとう」
「私は何もしていませんから、お気になさらず」
「とはいえ、アリスはこの件の功労者だから国王から褒美が出ると思うよ。決まったらまた来るよ」
そういうとカール王子はハース城に帰っていった。
***
「アリスー、おはよー」
次の日、私は大声で目を覚ました。目覚まし時計を見ると、朝の5時。
私のベッドには猫と犬が寝ている。
―― 今日も来たのね・・・
王子が今日も私のところにやってきた。わざわざ来てくれているのだから嫌な気はしない。でも、早朝はやめてほしい・・・
ボサボサの頭を手櫛で整えながらベッドから下りる。近くに猫が寝ているから、踏まないように気を付けないと。
私が部屋の窓を開けると、中を覗いているカール王子と目が合った。
―― めっちゃ覗いてる・・・
出てこないからといっても、女性の部屋を覗くのはどうかと思う。
「女性の部屋を覗いてはダメですよ!」私はカール王子を注意する。
「ごめん、ごめん。起きてるかと思って確認してたんだ」
「王子の声で起きました。こんな早い時間にどうしたのですか?」
「オークとの戦闘回避と不可侵条約の件の褒美が決まったんだ。それを知らせに来たんだよ」
「褒美は昨日貰いましたから、大丈夫ですよ」
「残念! 今回の褒美はお金や物じゃないんだよね。何でしょうか?」カール王子はドヤ顔で言った。
まさかの早朝クイズ・・・
朝5時にクイズを出してくる王子。まだ頭がボーっとしている。
無視するものかわいそうだから、私はクイズの答えを考えることにした。
―― お金や物ではない褒美?
お金でも物でもないとすると、土地とか家?
でも、土地や家は物(所有物)と言えなくはないのだろうか?
触れるものは物だから違うな・・・
―― 気体か液体の褒美?
気体が褒美。JKの匂い? 熟女の匂い? これはないな。
液体だとすると、水、調味料、酒、香水あたりか?
水と調味料は安いから褒美には適さない。
高級酒を褒美として送るのは聞いたことがある。でも、私は未成年だ。コンプライアンスを重視する王子は私に酒を送らないはず。
女性に贈るものとして香水はありえる。でも、匂いの好みが別れるから、香水はチョイスしにくい。ただ、この空気の読めない王子は香水を褒美にしないとは言い切れない・・
―― 魔法が褒美?
魔法は物ではない。だから、このクイズの答えの候補ではある。
しかし、魔法を習得するためには厳しい修行が必要。
魔法を習得できるのは良いことではあるが、厳しい修行が褒美だとは思えない。
―― 気持ちが褒美?
国王の前に呼び出されて「ありがとう。以上!」と言われるのか?
感謝の気持ちを褒美にされても困る。
―― 婚約者が褒美?
国王から「この男(カール王子)をお前の婚約者と認めよう!」と言われたら?
可能性は低いが、これもお金や物ではない。
チラッとカール王子を見てみる。リボンを付けていないだろうか?
確かに、顔立ちは悪くない。そして、王子と結婚するのは世の女性の夢。
でも、この王子は面倒くさそうだ。毎朝、どこかに連れていかれそうな気がする。
もし断ったら「お前、死刑!」とか言われそうだな・・・
考えた結果、私はカール王子に答えた。
「香水?」
「ブブー。不正解です!」
カール王子は楽しそうだ。
頑張って考えて損したと思いながら、私は「じゃあ、何ですか?」とカール王子に聞いた。
「僕からの愛!」
カール王子はそういうと、私の手にキスした。
「きゃっ、そういうの・・・セクハラですよ!」
「冗談、冗談。正解は・・・今日の11時に城にくれば分かるよ」
そういうと、カール王子は満足そうに帰っていった。
―― それ、朝5時じゃなくてよくない?
私はもう一度寝ることにした。
***
私は二度寝した後、11時にハース城を訪問した。
カール王子は門のところに立っていて、私を見つけると嬉しそうに城の門の横を指さした。
私は『指さす方に行け』という意味だと理解した。
カール王子が指さす方に進むとそこには掲示があり、その前に人だかりができていた。
私は人ごみをかき分けながら掲示板の前に辿り着く。掲示板を見ると、こう書いてあった。
====================
【爵位授与者】
女男爵 アリス・フィッシャー
====================
―― え? 女男爵って何?
掲示に私の名前が書いてある。私は女男爵の爵位授与者らしい。
そもそも、読み方は『おんなだんしゃく』でいいのだろうか?
男爵(だんしゃく)は聞いたことがあるが、女男爵は聞いたことがない。
はたして、女なのか?男なのか?
私は一つの結論に達した。
―― ダイバーシティを意識した爵位!
きっと、LGBTQ全部オッケーな爵位に違いない。
外見が男だけど心は女の人、その場合は男女爵かな? 外見が女だけど心は男の人、その場合は女男爵。
私は外見が女で心も女。だから、女女爵か女爵にしてもらわないとおかしくないか?
女女爵か女爵にしてもらうかどうかを私が考えていると、カール王子が嬉しそうにやってきた。
「これが褒美だよ。女性で爵位を持つなんてすごいね!」
カール王子はドヤ顔で言うのだが、私はそこまで爵位に興味がない。
「女性が爵位を持つなんて、聞いたことがありません」
「女性初だよ。良かったじゃない」
「なぜ私なんですか?」
「なぜって、アリスはビアステッド村をワイバーンから救ったし、オークとの紛争を解決して不可侵条約を締結した立役者だ。君はハース王国の英雄だよ!」
「はあ・・・」
「あまり嬉しくなさそうだね。貰えるものは貰っておけば、いいんじゃないかな?」
私は疑問をカール王子にぶつける。
「そうですけど・・・。ちなみに、読み方は『おんなだんしゃく』でいいんですか?」
「そうだよ。『おんなだんしゃく』だね。男か女かどっちやねん? みたいな名前だけど男爵と同じ貴族階級だ」
私は授与される爵位についてダメ元で聞いてみた。
「ところで、女男爵だと外見が女性で心が男性、あるいは外見が男性で心が女性、みたいに思われませんか? 私は外見も心も女性です。女爵か女女爵にしてもらえませんか?」
「そうは言っても、女男爵は女男爵という爵位だからね。ハース王国には女爵や女女爵はないんだよ」
「そうですか」
「今から爵位授与式があるから、城の中に行こうか」
そういうとカール王子は私の手を引いて、城の中に入っていった。
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