めんどうな奴を助けてしまった・・・(ケイトの話)

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めんどうな奴を助けてしまった・・・(ケイトの話)

 猫、犬、鳥、鹿、馬・・・  森の中を歩いていると、動物たちが私の近くに寄ってきた。動物たちとゆっくりと歩いていると前方に男が倒れているのが見えた。  男は武装していないから兵士ではなさそうだ。身なりは悪くない。きっと、どこかの国の裕福な商人か貴族だろう。ちょっといい男だ。年のころは20歳前後といったところか?  深い傷を負っているようだが、息はあるから死んでいない。  素通りするのもどうかと思ったから、私は青年に近寄って声を掛けた。 「大丈夫?」 「うぅ・・・」 「話せますか?」  私が体を揺すると、青年は意識を取り戻した。 「獣くさっ!」  なんて失礼な奴だ。  動物が周りにいるからその匂いを言っているのか?  それとも、私から獣の匂いがすると言ったのか?  後者だったら、私はこの青年をぶっ殺すことにする。 「大丈夫ですか?」と私は改めて青年に尋ねた。  青年は私の眼を見てボソッと言った。 「逆に聞くけど、大丈夫に見える?」 ―― コイツ、面倒くさい・・・  私はそう思った。けど、青年は死にかけているのだから、私はイライラを抑えて親切に対応する。 「見えないわね」 「そうだよね。誰が見ても分かると思うけど、僕はあまり大丈夫じゃない」 「そうね。ケガしてるからね」 「そうだよ。すぐに死にはしないと思う。死にはしないものの、それなりに重傷だ」 「ええ、重症ね」 「重症の人に「大丈夫ですか?」と質問するのはどうかな? もっといい聞き方があるはずだ」 「はあ? じゃあ、何て質問すれば良かった? 「どこが痛いですか?」とか?」 「それは外傷を見れば分かりそうだ。だって、血がダラダラ出てるよね。ほら、ここ!」  青年はそう言って、自分の腕を指さした。 ―― 放っていくか?  さっきの獣くさい発言もあるし・・・  そう思ったものの、重症の人を見捨てていくのも偲(しの)びない。  仮に、私がこの青年を見捨てたとしよう。そして青年は力尽きて死んでしまう。  すると、明日、同じルートで森を歩いたら「きゃー、誰か死んでる!?」というシーンが容易に想像できる。  だから、もう少しだけ我慢して話を聞くことにした。 「それなら・・・、死にそうですか?」私は別の質問を言った。 「30点! そんな君にヒントを差し上げましょう。聞きたいですか?」 「別にいいです・・・」  そんな私の返答を無視して青年は話を続ける。 「僕の気持ちになって考えてほしいんだ」 「はあ」私は怒りを抑えて事務的に対応する。 「今の僕にとって一番重要なことは『君が僕を助けてくれるか、助けてくれないか』だよね?」 「面倒くさっ・・・。じゃあ、助けてほしいですか?」 「え? 助けないの?」 ―― もう、放っていこう・・・  もう死んでくれていいです。いや、コイツはここで死ぬべきだ!  そもそも、誰かに頼んでコイツの死体を撤去してもらえば済む話だ。  そうすれば、明日、私がこの道を歩いているときに「きゃー、誰か死んでる!?」とはならない。  私が立ち去ろうしたら、青年が「ちょっと待って!」と私を呼び止めた。 「怒ってる?」青年は道端に捨てられた子猫のような目をして言った。 「ええ。気分を害したから、もう助ける気はありません。助けてほしいのだったら、それなりの言い方がありますよね?」 「僕のこと、嫌いですか?」 「だーかーらー、そういうところがダメ。助けて欲しかったら、素直に「助けて下さい!」って言えばいいでしょ!」 「助けて下さい・・・」と青年は言った。 ―― 仕返しするか・・・ 「うーん、どうしようかな?」 「え? 助けて下さいって言えばいいと言ったよね? 今までのことは謝ります。だから、お願いします。助けて下さい!」 「本当に反省してる?」 「反省しています・・・」青年は小さく呟く。 「もっと気持ちを込めて!」 「反省しています!」青年は大声で叫んだ。 「分かったわよ。はい、ヒール(回復)」  私が詠唱したヒールで青年の傷は回復した。これで死ぬことはない。  そして、明日この道で死体を見なくてすむ。 ―― くだらないことに30分も使ってしまった・・・  立ち去ろうとすると、その青年は「君の名は?」と私に尋ねた。 「ケイトよ。あなたは?」 「僕はポール。ありがとう」 「じゃあね」  私はそういうと転移魔法でその場から立ち去った。 「あっ、人じゃなかったんだ・・・」  残されたポールは小さく呟いた。
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