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ポール殺害犯の捕獲(ケイトの話)
私がコードウェル王国のマルティン国王に会った後、マルティン国王の使者がサンダース王国に向かい状況を説明した。両国にとってポール殺人犯の捜索は死活問題、すぐに捜査が始まった。
まず、捜査を開始するにあたって、コードウェル王国とサンダース王国は合同でポール殺人事件の捜査チームを立ち上げた。捜査チームは優先順位を付けながら捜査をしているものの、進捗は芳しくない。捜査チームでは捜査人数を増やして捜査範囲を広げながら、連日捜査を続けている。
捜査チームが初めに疑ったのはコードウェル王国とサンダース王国の国教関係者だった。両国の国民は一神教である国教を信仰しているのだが、同じ国に別の神が存在する状態を国教関係者は認めないと考えたからだ。さらに、森の教会の信者が増えることによって、国教の力が衰退していたことも容疑を強めた。
国教関係者をいくら尋問しても犯人は発見できなかった。国教関係者が口を揃えて言ったのは、森の教会がマデラ共和国として独立すれば、国教の信者が森の教会に流れることがなくなる、とのことだった。国教関係者からすれば、森の教会の独立は望ましい結果であったのだ。
次に捜査チームが疑ったのは両国の貴族だ。森の教会の信者が他国に移れば、国内の労働力が減るから容疑者として浮上した。しかし、貴族への捜査も空振りに終わる。
国内労働力は減少したものの、マデラ共和国との貿易(輸入・輸出)が見込めるから両国の貴族の利益はほとんど変わらない。さらに、自領の労働者の間で宗教対立が起こることによる機会損失を回避できることから、森の教会の独立は賛成こそすれ反対する貴族はいなかった。
国教関係者と貴族への捜査が空振りに終わった捜査チームは、森の教会内部の権力争いによってポールが殺害された可能性を疑った。私は森の教会の関係者に捜査チームへの協力を伝えて、捜査が開始された。ポールの森の教会でのポジションは枢機卿であったが、その実態は名誉職に近いもので実際には組織運営にほとんど関わっていなかった。
ポールは森の教会の中に自身の派閥を持っていないから、権力闘争によってポールが殺害されたとの結論には至らなかった。
その後、捜査チームは一般大衆に捜査範囲を広げた。森の教会がマデラ共和国を創ることに関して、一般大衆には反対する者も多くいた。理由は、森の教会の信者がコードウェル王国とサンダース王国の国外(マデラ共和国)に居住することになると、家族や親族がバラバラになってしまうからだ。国境を越えて家族や親族に会いに行くこともできるのだが、今までのように自由に会うことはできなくなる。
ただ、一般大衆を捜査するにも数が多すぎる。全国民を捜査するのは現実的ではないから、怪しそうな国民から捜査を開始していった。
捜査はことごとく空振りに終わったが、それでも捜査チームは諦めずに両国の国民に対する捜査を続けた。犯人を捕らえることができなければ、両国が滅亡するのだから。
***
私がマルティン国王に伝えた1カ月の期限の前日、コードウェル王国の使者団が一人の女性を連れてやってきた。派手ではないが、生地と仕立てを見ればそれが高価なものであることが分かる。貴族か金持ちの商人の娘といったところか。捕らえられた女性は手を縛られ、頭から布袋を被せられている。
「ポール殺害の犯人を捕らえました!」
―― え? 女?
使者が犯人と言う女性には布袋が被されているから顔を確認できない。でも、ポールが女性に殺害されるイメージが持てない。
私は使者に「本当に犯人なの?」と確認した。
「犯人です。間違いありません!」と使者は短く言った。
私は犯人に近づいた。
犯人の胸元を見ると、見覚えがある羽の細工のある首飾りが掛かっていた。なぜ、この女がポールに渡した首飾りを持っている? ポールを殺した後に盗んだのか?
私の身体は怒りに震えている。今すぐ、この女を殺すべきだ。
「なぜ、お前がその首飾りを持っている?」
女は黙っている。
「私の質問に答えろ!」
私は怒りに任せて女に被せられた布袋を取った。
「え? なぜ?」
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