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こうして私は魔王になった
私はベッドに寝ている男性に話しかけているようだ。
「私を残して逝かないで!」
「残念だけど・・・もうすぐお別れらしい。生まれ変わったら必ず会いに行くよ」
「私を見つけられるわけないでしょ」
「大丈夫だよ。動物に好かれる女性を探せばいい」
私はその男性を抱きしめている。しばらくしたら男性は動かなくなった。
寝てしまったか、あるいは・・・
***
―― いつもの夢か・・・
私はいつもの夢で目を覚ました。この夢は1年くらい前から見るようになった。なぜ見るのかは分からない。毎回シーンは違うが、私が会ったことない人や魔物が登場する。
私は東の森で忙しい日々を過ごしている。カール王子はほぼ毎日森にやってくる。他にやることがないのだろうか?
ある日、ワイバーンのリードが私に会いにやってきた。リードが「紹介したい者がいる」と言うから、私はリードの背中に乗ってその者に会いに行った。
リードはいくつもの山や川を越えて、ハース王国ではないところへ飛んでいった。はじめて見る景色のはずなのに、いくつかの場所には見覚えがあった。なぜだろう?
東の森を出て1時間くらい過ぎたころ、リードは大きな岩山に着陸すると私を洞窟の中に案内した。私が洞窟の中に入ると、そこには大きなドラゴンがいた。
「この者は竜族の長です」とリードは私にドラゴンを紹介した。
私が「こんにちは。アリスです」と挨拶すると、目の前のドラゴンが話し始めた。
「アリス様、はじめまして。私はフェルナンドと申します。この度はお呼び立てして大変申し訳ございません。何分(なにぶん)、我々がアリス様のところに伺うと目立ちますから、ご了承ください」
「それはそうね。リードだけでも目立つのに、さらにもう1体ドラゴンがくるとハース王国がパニックになるわ」
「ははは、そうでしょうね」
「それにしても・・・変なことを聞いていいかしら?」
「何でしょうか?」
「私、フェルナンドのことを何度か夢の中で見たことがある。見覚えがある」
「そうですか。それは光栄です」
「フェルナンドが実在するということは・・・私が見ていたのは現実?」
「昔の記憶の一部でしょう」
「昔の記憶?」
「ええ、そうです。アリス様の昔の記憶です」
何のことか分からない私は、フェルナンドに要件を確認することにした。
「それで要件は何かしら?」
「まずは、アリス様、15歳の誕生日おめでとうございます!」
―― 誕生日?
そういえば、今日私は15歳になったのだ。忙しくてすっかり忘れていた。
「ありがとう。誕生日なんてすっかり忘れていた。それにしても、よく知っているわね」
「もちろんですとも。我々は全員知っております」
「全員? グレコたちも?」
「もちろん、東の森のグレコたちも知っております。なんならアリス様が生まれたときから」
「えっ? 私が生まれたときから?」
「はい。そして、我々は今日この日を待っておりました」
「15歳の誕生日を?」
「そうです。そろそろ覚醒されるころだと思うのですが。ちょっとよろしいですか?」
フェルナンドはそういうと、私の方へ手をかざした。
「もう少しのようですね。覚醒される前に少しご説明しましょう」
フェルナンドはそういうと私に説明してくれた。
魔物には王が存在していて、その王は人間からは魔王と呼ばれている。前の魔王が15年前に死ぬ時に、生まれてくる私に転生した。魔王の力は強大だから人間の子供には扱えない。だから、肉体的に成長する15歳まで本来の力が発現しないようにしていたようだ。
今日、私は15歳の誕生日を迎える。もう少しすると私は覚醒して本来の力が戻ってくる。
フェルナンドの説明を聞いて、私にはいくつかの疑問が沸いた。
「私が魔王の生まれ変わりだとして、覚醒すると別人になるの?」
私はフェルナンドに尋ねた。
「そういうわけではありません。以前の記憶は戻りますが、今の記憶もそのままです。つまり、15年間の記憶に昔の記憶が足されるイメージです」
「そうなの・・・」
しばらくすると、私の身体から白い光が発せられた。その光が止まると頭に痛みが走った。頭痛のように頭の中ではなく外側だ。私が頭を触ると小さな尖ったものが頭にできていた。
「これ、角?」と私が尋ねたら「そうですね。角は元々ありましたね」とフェルナンドは何でもないように答えた。人間として暮らしていた私は「角が元々あった」と言われて、どう反応すればいいのか分からない。
少なくともこの角はあまり大きくない。だから、髪の毛で隠せば日常生活には支障はなさそうな気がする。今まで通りの生活を送ることはできそうだ。
他には重要な変化はないのだろうか? 明らかに人間とは違う見た目になっていたら、ちょっとマズい。不安に思った私はフェルナンドに確認した。
「私の頭に小っちゃい角が生えたのは分かった。他に変化したところはある?」
「いえ、他には特にありません。角は大きくありませんから、何かで隠せば人間として生活しても特に問題ないですよ」
フェルナンドは呑気に言った。他人事だと思って雑に答えているのか?
ドラゴンから見れば私の身体のサイズは小さい。大きいフェルナンドは小さい私に起こった、小さな変化に気付いていないだけかもしれない。後になって「そこは小さすぎて分かりませんでした!」と言われても困る。不安に思った私は、もう一度フェルナンドに確認する。
「念のための確認なんだけど、よく見てほしいんだ」
「はい、ちゃんと見てます」
「自分では見えないから、意外なところに変化が起きている可能性もあるよね」
「意外な変化ですか?」
「例えば、吸血鬼みたいにキバが生えたり、瞳の色が赤色に変わったり、悪魔みたいに尻尾が生えたりとか。そういうのはない?」
「大丈夫です。それに、キバと尻尾は自分で分かりますよね?」
「でも、目の色は分からないでしょ」
「角以外は変化していません。昔も小さい角があっただけで、人間にそっくりの見た目でした。だから、今回も角だけでしょう」
「本当に?」
「本当です」
「本当の本当に?」
「本当の本当です!」
「そう、よかったー。家に帰れないかと思った」
落ち着いた私は過去の記憶を取り戻していった。
思い出す記憶は物語に出てくる魔王とは違った。説明が難しいのだが、魔物と普通に暮らしていた。人間との小競り合いはたまに発生するのだが、本格的な戦闘があるわけでもなく、お互いに憎み合っているわけでもない。
魔王は人間の敵だと思っていたのだが、私の思い過ごしだったのかもしれない。
「記憶が戻ってきたけど、魔王と恐れられるような残虐非道な行いをしていたわけではないのね」
「そうですね。おとぎ話の魔王はフィクションですから。我々を取りまとめる王というだけで、人間の国の王と変わりませんね」
「意外だね。魔王は悪い奴かと思ってた」
「私は会ったことがありませんが、悪い魔王も過去にはいたようです。だから、おとぎ話に出てくる魔王は悪役になったみたいですね」
「確認だけど、私の使命は『人間を滅ぼすこと』じゃないよね?」
「ええ。アリス様が人間を滅ぼしたいのであればお手伝いしますが・・・」
「しなくていいです」
「昔、国を2つ滅ぼしかけたのですよ。覚えてますか?」
フェルナンドは私の黒歴史を突いてきた。
「知ってる。言わなくていい・・・」
こうして、私は魔王になった。
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