しばらく森に引きこもろうかな?

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しばらく森に引きこもろうかな?

「アリスー、起きてるー?」  私はいつものように大声で目を覚ました。目覚まし時計を見ると、朝の5時。 ―― 今日も来たのね・・・  毎日ではないが、カール王子がうちに来るのは大体この時間だ。私はいつものようにボサボサの頭を手櫛で整えながらベッドから下りて窓の方に向かう。  近くに猫が寝ているから、踏まないように気を付けないと。  私が窓から外を見ると「猫ちゃん、おはよー」とカール王子は猫たちに挨拶している。  いつもの風景といえば、いつもの風景だ。  ただ、私を取り巻く環境はここ数日で大きく変わった。  少年が救出されてからものの数日で、私が重症の少年の傷を治したことがハース王国中に広まったのだ。ある者は私のことを神と噂し、ある者は私のことを魔王と噂した。 「ちょっと気になることがあって来たんだ」とカール王子は私に言った。 ―― 用事がなくても来てますけどね・・・  そう私は思ったものの口には出さない。かなり変人だが、一応、彼はこの国の王子だ。  カール王子は要件を話始めた。 「アリスが重症の少年に回復魔法を使ったことが国内に広まっているのは知ってるよね?」 「もちろん知っています」 「そのことで、ハース王国の国民がいろんなことを言っている。ある者はアリスを神だと言っているし、ある者はアリスを魔王と・・・」 「そのようですね。昔も似たようなことがありました」 「本で読んだことあるよ。たしか、200年前の出来事だ。森の教会だよね?」 「そうです。あの時は国教とは別の神を認めるかが議論になって・・・・森の教会はコードウェル王国とサンダース王国から独立してマデラ共和国を創ったんです」  カール王子は何かを考えている。 「その後、コードウェル王国とサンダース王国は滅んだ。一部の本では魔王が滅ぼしたと書いてある。それは事実?」 「事実ではありません。私は何もしなかった」 「良かった。そうだと思ったんだ。でも、問題はここからだ。ある者は魔王、つまりアリスがハース王国を滅ぼすのではないか、と言っている」 「私が? 何のために?」 「それは分からない。おとぎ話でしか知らないから、みんな半信半疑だ。国民の言うことに根拠はないよ」 「噂話・・・」 「そうだね。でも、そう思っている国民が相当数いるのが厄介だ」 「そうですか・・・」  私は200年前に経験した争いを思い出した。状況は200年経っても変わっていない。  私を神だと慕う信者、私を悪魔だと憎む人間。私の存在を人間が理解できないことは200年前に分かっていたはずなのに・・・ 「しばらく、この国を離れましょうか?」私はカール王子に言った。 「アリスに任せるよ。僕も何が正解か分からないから」 「そうですね」 「200年前のようにアリスを神だと言って信者が新興宗教を創るかもしれない。人間の本質は今も200年前も同じだから。でも、アリスが今まで通りの生活を送りたいのであれば僕は応援するよ」 「ありがとうございます。人間としての私は東の森の警備責任者です。ですから、しばらくハース王国から離れて森に滞在することにします」 「分かった。それでいいと思うよ」  私は着替えを済ませ、家族に事情を話して部屋に戻ってきた私。  転移魔法で森に移動しようとしたら、カール王子が私の部屋に入ってきた。 「さあ、行こうか!」 「えぇ? 一緒に?」 「そうだよ。何か問題でも?」 「私一人でしばらく隠れようと思ってましたけど、カール王子が一緒にきたら大事になりませんか?」 「大丈夫だよ。何日か出てくると言ってある」 「そういう問題では・・・」 「それに、転移魔法がどういうのか知りたいんだ。迷惑かけないから、お願い!」  カール王子は合掌ポーズをとっている。 「連れていくのはいいですけど、すぐに帰って下さいね」 「帰る、帰る」 「二回言うのが怪しいですよ」 「ふふふ・・・」 ***  私はまず昔住んでいた場所に転送した。懐かしい。久しぶりにきたけど、木々や道も以前とほとんど変わっていない。いつも通っていた森の中を歩いていると、動物たちが私の近くにやってきた。  しばらく歩いていると、向こうから全力でシルバーウルフが駆けてくる。ジョンだ。  ジョンは東の森のフィリップよりも一回り大きい。 「久しぶりね、元気だった?」  ジョンは私にまとわりついて離れない。こういうところが犬っぽい。  ジョンはカール王子が私の隣にいることに不満があるようで「ガルルルル」と威嚇している。これも見慣れた光景だ。  私はその後、久しぶりに会う魔物たちに挨拶して回った。一通り挨拶回りが終わるとフェルナンドのところへ行った。今後の相談をするためだ。 「ちょっとマズいことになってね」と私がフェルナンドに言うと、フェルナンドは「その人間は?」と私に尋ねた。私はフェルナンドにカール王子を紹介していなかったことに気付き、私は慌てて紹介する。  私が少年を回復魔法で助けた経緯をフェルナンドに伝えると、フェルナンドは「200年前と同じですね」と言った。 「そうなのよ。前と同じように神に祀り上げられても困るから、一時的に身を隠そうかと思って・・・」 「それがいいかもしれません。それに、ケイト様・・・、いえ、アリス様は私たちの王です。こちらに居てもらった方が有難いですし・・・」 「そうよね。でも、人間に転生したからハース王国に人間の家族がいる。ハース王国から爵位も受けてしまったし。どうしようかな?」 「家族には、たまに会いに行かれたらいいだけではないでしょうか?」 「そうね。そうよね」  私たちのやり取りを聞いていたカール王子は「それに、ハース王国の爵位のことは気にしなくてもいいよ」と言った。 「どういうことですか?」 「僕の裁量で何とでもできるから気にしなくても大丈夫、という意味。必要なら国の任務も解除するから、ここで暮らしても構わない」  フェルナンドもカール王子も私がここで暮らすことに肯定的なようだ。  こうして私はしばらく森に引きこもることにした。  でも、事件は起こった。
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