逆に聞くけど、大丈夫に見える?

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逆に聞くけど、大丈夫に見える?

 私が森で暮らし始めて1週間が過ぎたころ、東の森のグレコから念話で連絡があった。弟のケヴィンが誘拐されたとカール王子が伝えにきたそうだ。  瀕死の子供を救ったことで、ハース王国の国民は、私を神と呼ぶ人間、私を魔王と呼ぶ人間に分かれた。誘拐したのはきっと後者だ。 ―― 次から次へと・・・  私はもちろん弟を助けに行くつもりだ。  ただ、200年前にポールの件で国を2つ滅ぼしかけたことがある。私の黒歴史だ。  怒りに任せて行動してはいけないから、私は状況を冷静に考えることにした。 ―― わざわざ私を怒らせるようなことをするだろうか?  まず、カール王子の話では古い書物には私がコードウェル王国とサンダース王国を滅ぼしたと書いてあるようだ。つまり、私を魔王と呼ぶ人間は私を恐れている。  この種類の人間が考えることは、自然に厄災が過ぎ去ることを祈るだけ。わざわざ厄災を自分から招き寄せたりしない。 ―― わざと私をどこかに呼び出そうとしている?  罠を張って私を捕らえようと計画しているのだろうか? さすがに魔王を侮り過ぎだ。普通の人間であればそんなことは不可能だと分かるはず。  それとも、何か勝算があるから危険な賭けを仕掛けているのだろうか?  いくら考えても犯人の目的が分かりそうにない。それに、私を呼び出すための人質はケヴィン以外にも両親がいる。ケヴィンがいつまでも無事ではないから、急いだほうがいい。  私はまずケヴィンの連れていかれた場所を特定することにした。東の森でカール王子から状況を確認した後、私はケヴィンの持ち物をフィリップに渡して捜索を依頼した。  フィリップから直ぐに「見つけました!」と連絡があった。私がフィリップのいる場所に転移しようとしたら「僕も一緒に行くよ」とカール王子が言った。 「罠かもしれないから、危ないですよ?」と私は言ったのだが、「僕がいたら敵も手を出せないだろう?」とカール王子は反論する。  ここでカール王子と口論してもしかたない。私はカール王子を連れてケヴィンが捕まっている場所へ転移した。 ***  私とカール王子が転移した先は薄暗い倉庫だった。外から僅かに光が入ってきており、真っ暗ではない。私が壁際に目をやると、椅子に縛り付けられたケヴィンが見えた。 「お姉ちゃん?」 「ケヴィン、大丈夫?」  私がケヴィンを助けるために近づいたら、“ヒュン”と音とともに矢が飛んできた。  私はそれを風魔法で吹き飛ばす。敵は暗闇から狙撃しているから何人なのか分からない。 “シュシュシュ”  今度は複数の方向から矢が飛んできた。私はケヴィンのところへ走っていき、広範囲に風魔法で吹き飛ばした。ケヴィンに外傷はない。無事だ。私がホッとしていたら、 「うぅぅ・・・」  うめき声とともに誰かが床に倒れた。暗闇に目を凝らすとカール王子が倒れている。  カール王子に駆け寄ると、ケヴィンに向けて放たれた矢がカール王子の腹部に刺さっていた。  ケヴィンを助けることに集中し過ぎて、カール王子を守るのを失念していた。  私はケヴィンを連れてカール王子に近づく。 「カール王子! 大丈夫ですか?」 「逆に聞くけど、大丈夫に見える?」 「え?」 ―― この面倒くさい感じ、懐かしい・・・  ああ、やっと分かった。私は少し笑いながらカール王子に言う。 「その面倒くさい言い方、大昔に聞いたことがあるなー」 「面倒くさいは酷いけど、確かにこのセリフを言うのは二回目だね」 「へー」 「ほら、これが証拠」  カール王子はそういうと首飾りを私に見せた。羽の細工のある首飾りだ。 「本当にポール?」と私が言った瞬間、「お兄様!」と女性の声が聞こえた。  クリスティ王女だ。私を凄い形相で睨んでいる。  ケヴィンを誘拐しておいて、勝手に怒っている。その態度は納得いかない。  私が何かしたのか? 「また、私から兄を取り上げるつもり?」 「え? また?」 「そうよ! 200年前も私から兄を取り上げたよね?」 「あなた・・・ニーナ?」 「私がこの首飾りをしていたのに、気付かなかった?」  クリスティも羽の細工のある首飾りを見せた。  たしか、リードに乗っている時に見た。どこかで見た首飾りに似ていると思ったのを覚えている。でも、その時はまだ覚醒していなかったから、首飾りが何なのか分からなかった。 それに、覚醒した後はクリスティ王女をポールだと疑ったくらいだ。 ―― ポンコツ探偵だな・・・  混乱してきた私は整理する。  3人も同時に転生するものなのだろうか? 気になるけど、事実として転生しているのだから、その疑問は後にしよう。私たちに起こったことは、  私はケイトの生まれ変わり。  カール王子はポールの生まれ変わり。  クリスティ王女はニーナの生まれ変わり。  ニーナは私のことを恨んでいる。なぜかは分からないが、東の森に放火したのも、ケヴィンを誘拐したのも私が狙いだ。  それに「兄を取り上げた」と言っていたのだが・・・何のことだ?  私が考えていると、カール王子が申し訳なさそうに言った。 「ケイト。考え中のところ悪いんだけど、先に助けてくれないかな?」 「あっ、ごめん。はい、ヒール(回復)」  私が回復魔法をかけるとカール王子の傷はみるみるうちに治癒した。 ―― このやり取り、懐かしい・・・  怒りが頂点に達しているクリスティ王女には申し訳ないのだが、私はそう思った。
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