ポールからの贈り物(ケイトの話)

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ポールからの贈り物(ケイトの話)

 私は秋が大好きだ。  夏の緑色から冬の灰色に変わる束の間の色の変化。カエデ、イチョウ、ススキなどの色が日々変化していく。もちろん、森の中には常緑樹もあるから、緑、黄、赤など様々な色彩を楽しむことができる。  私がシルバーウルフのジョンと森の中を歩いていたら、鳥、鹿、犬など動物たちが寄ってきた。しばらく動物たちと触れ合いながら歩いていたら、ジョンが「前から誰かきます」と私に教えてくれた。  本当は気付いていたのだけど、私は「教えてくれてありがとう」と言ってジョンを撫でた。  撫でられたジョンは喜んでいる。こういうところが犬っぽくてカワイイ。犬よりもサイズは大きいのだけれど。  私が歩いていくとジョンが「グルルルルル」と前からくる青年を威嚇し始めた。  私は青年に見覚えがあった。この前森で助けた面倒な男だ。  確か名前はポールだったかしら?  ポールと話をすると長くなりそうな気がする・・・  私が別の道を通ろうとしたら、ポールは私に気付いた。 「やあ、ケイト。今日も動物が一緒なんだね」 「動物が勝手に寄ってくるのよ」 「そうなんだ。かわいいね」  私はポールの獣くさ発言を思い出した。思い出しただけでイライラする。 「ところで、この前「獣くさっ!」って言ったわよね? あれどういう意味?」 「そんなこと言ったかな・・・」 「しっかりと聞きました。誰が獣臭かったんでしょうか?」 「意識が朦朧としていたからね。あまり覚えていないんだ・・・」  あくまで誤魔化そうとするポール。私は更に追及する。 「じゃあ、問題。1番、私の周りにいた動物の匂いが獣臭かった。2番、私が獣臭かった。3番、動物と私の集団が全体的に獣臭かった。どれ?」 「うーん、1番かな。ケイトからはいい匂いがした」  少なくとも私は臭くなかったらしい。少し安心した私は「ふーん」と返す。  「いい匂い」が正解だったことを悟ったポールは要件を切り出す。 「ところで、この前はありがとう!」 「いえいえ。毎日通っている道で死体を見るのは気分が良くないから」 「その死体、僕のこと?」 「そうよ」 「実は渡したいものがあって、ケイトを探していたんだ」  ポールが話している間もジョンは威嚇を止めない。馴れ馴れしく私に話しかける青年に腹を立てているようだ。あるいは、獣臭いと言われているようで怒っているのかもしれない。  ジョンは「こいつ、噛んでいいですか?」と私に尋ねた。 「え? 喋った?」ポールはジョンが話しているのに驚いている。 「ダメダメ、襲ったらダメ! この前、この人が死にかけていたときに助けたんだけど、回復させるまでどれだけ時間が掛かったか・・・」と私はジョンに言う。 「それだけ重症だった、ということですか?」 「違う違う! なんて言うかなー、この人は話が長いから、話が進まないのよ。1話したら3くらい返ってくる感じ。分かる?」  ジョンはポールが面倒な奴だと悟って静かになった。  私はポールに話しかけた。 「渡したいものって?」 「これだよ」  ポールはそういうと、首飾りを私に差し出した。  鳥の羽の形をした凝った細工が施されている。宝石は付いていないが立派な首飾りだ。 「これは?」 「僕は装飾品を作るのが趣味なんだけど、そこらの職人よりもよほど上手いと思う。ここまで凝った細工ができるのは、この辺りでは僕くらいじゃないかな?」  ポールは得意げに言った。  きっと、私に首飾りを買ってほしいのだろう。森の中にまで売りにくるなんて・・・ 「へー。いくら?」私は興味なさそうに言った。 「この首飾りは、ケイトのために作ったんだ。この前のお礼。よかったら、受け取ってくれないかな?」 ―― 無料? 逆に怪しいな・・・  私はポールから受け取った首飾りを手に取って見つめた。  ポールに会ったのは今回で2回目。  ほぼ初対面の青年から首飾りを受取るのには抵抗がある。  綺麗な細工がなされていて買えばそれなりに値が張りそうだ。  それなのに無料でくれると言っている。  罠の可能性も捨てきれないな・・・ 「呪いとか掛かってないわよね?」私はポールに確認する。 「お礼に作った首飾りに呪いをかけるか?」 「ないと思うけど、念のためよ」 「ないよ。そもそも、僕は魔法を使えない。だから呪いの掛け方を知らない」  私は念のために魔力探知してみたが、魔力は感じない。 「そう。魔力を感じないから呪いはないか。それにしても綺麗な羽の細工ね」 「まあ、手先だけは器用だからね」 「ありがとう、いただくわ」  ポールにお礼を伝えて、私はジョンとその場を立ち去った。  少し進んでから振り返ったら、ポールは「またねー!」と手を振っていた。
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