擬人ケイト・ケチャップマン

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擬人ケイト・ケチャップマン

ミャン歴001年。 惑星チーズは束の間の平和を迎えている。 東の大陸の地方都市、ネオ・チョモイヤシティで、 空襲に被災した人達に支援物資を配る、 赤毛の女性がいる。 「ねーちゃん、擬人さんなの?」 「はい、はい」 「あたしはケイト・ケチャップマン」 「擬人コードHLP000」 「もと人間ですよ!」 「ほー、嬢ちゃんがあの伝説のマル・マールの反乱を」 「終わらせたトリン部隊のひとりか」 「うん」 「昔はあたしも人間だったんだけどね」 「あの紛争で全部の身体機能が使えなくなったのよ」 「死んだんだよ」 「緊急時意思表示カードに」 「あたしは擬人になりたいですって書いたら」 「マザーベンがその通りにしてくれたの」 「アカシ銀河で最初の人間擬人だよ?」 「ご飯はどうしてるの?」 「ご飯は食べられるの!」 「擬態胃袋と人工胃液で、仮想内臓を循環させるの」 「なんと!」 「赤ちゃんだって産めるのよ?」 「擬人の赤ちゃん!」 「ねえ知ってる?」 「擬人は成長してるんだよ」 「栽培プログラムで老化も若返りも」 「自由にコントロール出来るんだ!」 「いまは昔とは違うんだよ」 マル・マールの反乱から3年。 トリン艦隊の活躍によりファーム星系とシュール星系は危機を脱した。 多くの人間が死に擬人が破壊された。 トリンたちも破壊されたが、 回収可能な記憶クリスタルチップを復元、再構成を試み。 数人の擬人は蘇った。 人間だったケイト・ケチャップマンも即死状態になり擬人への手術が施された。 この宇宙で最初の元人間の擬人が誕生した。 それは歴代の惑星チーズのマザーたちが予知した、待ち望んでいた理想の擬人。 ロボットが子供を産む日を夢見た、宇宙英雄トリン・カスタネットの遺志を継ぎ。 トリンの師弟のケイトが赤ん坊を授かる大役を任された。 どうやってトリンたちがマルマールに勝利したかと言うと。 人間だったケイト・ケチャップマンの秘密兵器。 アンチ闇ウイルス。 それを密かにマルマールの旗艦コンピュータに注入したからだ。 これには長い時間人工睡眠していた擬人のミサキ・タイタンが協力した。 くそ長い演算ルーチンを僅か40アンツで完成させた。 このアカシ銀河には、まだ未知の高度な知的生命体がいる。 その生命にコンタクトすることが生き残ったヤシャ星系、ファーム星系の希望。 これからも邪(よこしま)な調和を乱す存在は現れる。 ファースト人間擬人ケイトケ・チャップマンは宇宙の希望を託された。 「あ、トリンちゃん達が来る頃だ」 ケイトは配膳トレイを片付けている。 隣で給食を配る擬人LP、サクラ・ストラトスが呟く。 「ケイト様」 「逞しくなった」 ポっ 「ストラトス中尉はその恥じらいが好きなんだね」 ケイトが生前から呼称する軍隊の階級は、彼女が軍事オタクなので勝手につけたデタラメである。 ピカッ! ズズーーンッ!! 轟音と地響きが起こり、辺り一面光の中に包まれる。 「ああー!」 「また邪軍の反乱だよー!」 遠くの空から中型大気圏内シップが降りてきた。 ブーン・・・ ズズズズ・・・ 「ケイトちゃん!」 「あたしを待ってたの?」 直接耳機関にテレパシーが来る。 トリンの声で、子供のように幼い口調になっている。 「トリンちゃん!」 「あたしを早く千式戦に乗せてよ!」 「うん!」 「ケイトちゃんの専用機」 「このトリンさまが大事に運んできたぞお?」 シップが着陸して、後部ゲートから戦闘機が射出された。 三年前。 マル・マールとの交戦で破壊したはずのトリンのクリスタルチップは再構築はされた。 だが、記憶が失われてしまった。 当然何世紀にもわたり抱えた過去の心の傷は忘れてしまった。 悠久ベース、コレクト・ワンにて。 「ねえ、おじちゃん」 「あたしはトリンさまは何歳?」 生まれ変わったトリン・カスタネットは、 開発者の男性に話しかける。 見た目は変わらないのに幼児のように無邪気に話すトリンを、 やはり再生された副長のストラトス・ノーマットが見つめながら。 「スキルは失われていないのですか?」 「はい、奇跡的にスキル能力は受け継いでいます」 「しかし長年苦しんだトラウマは、完全には消えていません」 「いつか記憶が再燃する可能性もあります」 傍らで奇跡的に生き残った擬人LPの宇宙一のエースパイロット、 シャムロッド・ブルーベリーは涙を流しながら見つめる。 「おねーさま・・・」 「愛したかたをその手で葬った気分も忘れてしまったのですか」 最大の敵だった、トリンが愛すべき男だった先駆者のマルマールは、 変わってしまった。 長い年月は彼を鬼に変貌させた。 青年の頃の純粋な気持ちは、彼の死後明らかになる。
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