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神堂と多神はとある屋敷の門前に佇んでいた。
「ふーん……一見なんの問題もなさそーに見えっけど……この屋敷で何があったって?」
門戸を開け、もぬけの殻の屋敷の敷地へと足を踏み入れながら、首を傾げた多神に、神堂がはぁとため息を吐く。
「多神……事前に資料に目を通していないのですか?」
「いやー……俺、書物とか苦手なんだよねー」
一応さらっとは見たぜ、と弁明されたところで、内容を把握していないのなら見ていないに等しい。
神堂は、おのれの思考整理も兼ねて簡潔に概要を説明する。
「この屋敷で、数日前に子どもたちが消えました」
「消えた……行方不明ってことか? オニ絡み?」
この屋敷の住人たちに聴取して判明した情報は、残念ながらそれほど多くはない。
「おそらくは。屋敷にいたはずなのに、忽然と姿を消したようです」
「ただの家出……なんてオチじゃないよな?」
そんな簡単な話だったら、自分たちは今ここに派遣されていないだろう。
「門番が嘘を言っていないのなら、子どもたちは玄関から出ていないとのことですが。例えば……裏口、塀をよじ登ってこっそり外出、なんて可能性もなくはないですね」
あくまで可能性の話だが、一応市内の捜索にも当たっているそうだ。
「子どもが消えた時の状況は?」
「詳細不明。気がついたらいなかった、とのことです」
神堂の応えに、多神は眉を顰めて頭を掻く。
「それ、なんもわかってねーってことじゃん。人攫いとか、なんか怪しい奴の姿を見た奴とかは?」
「なし。室内から子どもたちだけが消えた、今わかるのはそれだけです」
ひとまず屋敷の周囲を二人はぐるりと歩いて回ってみた。
手入れの行き届いた日本庭園は、行方不明者を出した屋敷を前に場違いにも長閑で良い天気である。
「……他には? 何かあんだろ? 俺たちが派遣された根拠」
足を止めた神堂は眉間に皺を寄せると、不機嫌そうに多神を見下ろした。
「……多神。全部私に説明させる気ですか?」
「ご、ごめん……」
不服そうに歪む神堂の瞳を見つめ返して、多神は両手を合わせて謝罪する。
「面倒がらずにちゃんと任務資料くらい読みなさい」
「……はーい」
視線を泳がせ曖昧に答えた多神に、やれやれ、と肩をすくめながら神堂は口を開く。
先日、現場確認のために屋敷に派遣された退鬼師の内、一人が行方不明となり、同じ現場に行った三人が負傷して帰還した。
「……ふーん、やっぱオニ絡みか。しかも、まだこの屋敷に潜んでいる可能性がある、か……で、俺たちの任務は?」
分かりきった答えを促す多神に、神堂が瞳を眇めて告げる。
「消えた子どもを探しつつ、この屋敷に潜むオニを見つけ、退けろ」
***
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